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「まさか、担任の先生がレイだなんて……」


王立魔術学園の入学式を終えて帰宅したルシンダは、クラス担任として教壇に立ったレイの姿を思い出しながら、ぽつりと呟いた。


同じ学年の先生だったらいいなとは思っていたが、自分のクラスの担任になるとは思わなかった。


ルシンダのクラスは、魔術の才を持つ生徒たちが集められた「特魔クラス」だ。そのクラスの担任になるということは、レイは相当優秀なのだろう。


教師3年目となるレイは、生徒の扱いにも慣れていて、頼もしく立派な先生に見えた。


(初めて会ったときは、教師なんて……って言ってたのに)


初対面での出来事を思い出して、ルシンダがくすりと笑う。






レイと出会ったのは5年前。ルシンダが10歳のときだ。


当時、ルシンダが魔術を習っていたフローラ・トレバー子爵夫人の息子であるレイは、ルシンダより7歳年上の17歳だった。


初対面でのレイの印象は強烈だった。

「魔術の教師なんて所詮は王宮魔術師になれない落ちこぼれが就く仕事だ」などと、教師である母フローラを馬鹿にするような発言をしたのだ。


もしや反抗期なのだろうかと思いつつも、尊敬するフローラのために……と、お節介ながらやや説教めいた話をすると、レイは何か思うことがあったらしく、フローラへの態度を改めてくれた。


それからレイはルシンダの兄弟子となり、一緒にフローラから魔術の教えを受けたり、ときにはレイに練習を見てもらったりするうちに、すっかり親しくなった。


頼もしい兄弟子としてレイを慕っていたルシンダだったが、その気持ちが特に強くなったのは、あの騒動があった日だ。




それは、フローラの屋敷でのレッスンの日のこと。

前の生徒への指導が長引いていて、少し待ち時間ができたルシンダは、屋敷の庭の隅で苦手な土魔術の練習をしていた。


『えっと……土の壁を作るには魔力をこうして……』

まずは百科事典くらいの大きさの壁を作ろうと、イメージを膨らませて魔力を練る。

それから「形成」の魔術で土壁を生み出そうとしたのだったが──上手く出来たように見えた土壁はすぐに崩れ落ちて、ただの土の山になってしまった。


(またダメだった……)


魔力が足りていなかったのだろうか。

それとも、操作の仕方が悪かったのだろうか。


もう何十回目かになる失敗にルシンダがしょんぼりと落ち込んでいると、突然背後から大きな笑い声が聞こえてきた。


『あっはははは! そんな小さい壁も作れないのかよ!』


魔術の失敗を馬鹿にするような発言に、どきりとして振り返る。

するとそこには、ルシンダより少し年上に見える少年が意地の悪そうな笑みを浮かべて立っていた。


『おい、お前が次の生徒だろ? 今日はせっかくトレバー夫人にいろんな魔術を教えてもらいに来たのに、次の生徒がいるからって追い出されちまったじゃねえか』


少年に詰め寄られて、ルシンダが思わず後ずさる。

しかし、ルシンダが後ろに下がった分、少年がまた近づいてきた。


『このオレを差し置いて、一体どんな奴の授業をするのかと思ったら、まさかこんな初級の土魔術もできない素人だなんてな。お前みたいなガキ、どうせ魔術の才能なんてないから、さっさと辞めちまえ!』


理不尽な暴言。

初対面の少年に、こんなことを言われる筋合いなどない。

けれど、ルシンダは言い返すことができなかった。


少年の言うとおり、土壁の形成はそれほど難しくはない魔術だ。それなのに、何度練習してもなかなか上手くいかない。


フローラは、ルシンダの魔力は全属性に適正があると言っていたし、きっといい魔術師になれると言ってくれた。


でも、本当にそうなのだろうか。

フローラはまだ子供のルシンダにやる気を出させるために、甘い評価をしてくれただけなのではないだろうか。


そんな不安が押し寄せてきて、今まで保てていた自信がみるみる小さくしぼんでしまう。


『……そうですね。やっぱり私には魔術の才能なんてなかったのかも……』


ルシンダが消え入りそうな声で呟くと、少年はますます愉快そうに声を上げた。


『はっ、そうだよ! だからお前みたいな能無しは今すぐ帰──うわっ……!』


高らかに笑っていた少年が、突然、慌てた声をあげる。


どうしたのかと見てみれば、少年の足下だけ急に地面が高く盛り上がり、かと思ったら一瞬で砂のように崩れ落ちてしまった。バランスを崩した少年が勢いよく尻餅をつく。


一体何が起きたのかとルシンダも少年も呆然としていると、すぐ向こうから、よく聞き慣れた、けれど今まで聞いたこともないほど冷たい声が響き渡る。


『おい、うちのルシンダをいじめてんじゃねえぞ、このクソガキ』


(レイ……!)


声の主はレイだった。

眉間にシワを寄せ、険しい表情をしている。


『な、なんだよ、お前! 背後から仕掛けるなんて卑怯だぞ!』


少年が立ち上がりながらレイを睨みつけるが、レイは軽くあしらうように鼻で笑った。


『女子に八つ当たりして鬱憤を晴らそうとするような奴には言われたくないな』

『うっ……うるさい!』


少年が顔を真っ赤にして片手を上げる。

ルシンダは嫌な予感がして大声で叫んだ。


『レイ、危ない!!』

『ハハッ、オレを馬鹿にしたお前が悪いんだ!』


少年の放った風魔術の刃が音を立ててレイへと向かっていく。


(この至近距離じゃ避けられない……!)


レイが怪我するのを見たくなくて、思わず両手で顔を覆おうとしたが、レイがふっと笑うのが見えて、ルシンダは手を止めた。


次の瞬間、レイの周囲にビュウッと竜巻のような強い風の渦が巻き起こる。少年の放った風魔術は呆気なくその渦に飲み込まれてしまった。


『そ、そんな……』


驚愕の表情を浮かべて震える少年に、レイが冷たく言い放つ。


『暴言は吐くわ、魔術は乱用するわ、まったく躾のなってないガキだな』

『だ、黙れッ! お前なんか、どうせここの庭師か何かのくせに偉そうに……! トレバー先生に報告してやる! お前なんてクビだ、クビ!』


少年は魔術ではレイに勝てないと悟ったのか、今度は権力を笠に着て優位に立とうとしてくる。

レイが可笑しそうに口角を上げた。


『なるほどな、やれるものならやってみな。そのトレバー先生は、俺の母親だけどな』

『なっ……!』


少年が驚いて目を見開くが、たしかにレイの外見がフローラに似ていると気づいたのか、俯いて握りこぶしをブルブルと震わせる。


『も、もういい……! こんな乱暴な場所、オレには相応しくなかったんだ! こっちからお断りだ!』


少年はそう捨て台詞を吐くと、ルシンダとレイを振り返ることなく、そそくさと走り去ってしまった。


レイが軽く溜め息を吐いて、ルシンダのそばへとやって来る。


『ルシンダ、大丈夫か? 嫌な思いをしたな』

『ううん、レイが助けてくれたから……。ありがとうね』


たしかに散々な目に遭ったが、レイのおかげで嫌な気持ちはほとんど吹き飛んでしまった。

背の高いレイを見上げてお礼を伝えると、彼は申し訳なさそうに眉を寄せた。


『さっきの奴、母さんに教わるのは今日が初めてだったんだが、練習中も言うことを聞かずに好き勝手してたらしい。そのせいで時間が延長になったあげく、次の授業があるから今日はもう終わりだと伝えたら、いつのまにか姿を消したとかで……』


それでレイも少年を探すよう頼まれて、ここでルシンダに絡んでいるところを見つけたらしい。


『母さんから初心者扱いされたことが気に入らなくて、お前に八つ当たりしたんだろうな。あんな目に遭って、ダセェ捨て台詞も吐いてたから、二度とうちには来ないはずだ。だから安心しろ』


レイがルシンダの頭をぽんぽんと撫でる。

その優しい感触と、もうさっきの少年に会わなくて済むという事実に、ルシンダはほっとした。


ただ、少年に言われたあの言葉は、まだ小さな棘のように胸に突き刺さったままだったが。


(”能無し” ……か)

たしか、前世の母にもそんなことを言われた記憶がある。


大好きな剣と魔法の世界に転生して、今世では前世の瑠美とは違って何かの才能に恵まれているかもしれないと期待していた。


(でも、やっぱり今世でも私はダメなままなのかも……)


自分が情けなくなってしゅんと肩を落とすと、頭の上に載っていたレイの手がルシンダの髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。


『それから、お前の土魔術の練習、俺が付き合ってやる』

『え……?』


思いがけない言葉にきょとんとしていると、レイがにやっと笑ってみせた。


『”形成” の魔術が苦手なんだろ? 俺がコツを教えてやるよ』

『えっ、でもレイだって自分の課題もあるのに、いいの……?』


自分のことで煩わせてしまうことが申し訳なくて、そう尋ねると、レイはルシンダの額を人差し指でピンと押した。


『俺はお前の兄弟子なんだから、妹弟子を手助けするのは当然だろ? だから、お前は黙って俺を頼ればいいんだ。な?』

『レイ……』


レイの思いやりが、温かな雨のようにルシンダの心にしみこんでくる。


普段から、ルシンダに対して積極的に世話を焼く訳ではないのに、ルシンダが困ったり悩んだりしていると、こうして何のてらいもなく手を差し伸べてくれる。


レイのこういうところを、ルシンダは尊敬していた。


『──ありがとう。それじゃあ、レッスンが終わったら一緒に練習してくれるかな?』

『もちろんだ』


レイの明るい笑顔を見て、ルシンダはズキズキしていた胸の痛みが少し軽くなったような気がした。




◇◇◇




(──それからレイに練習に付き合ってもらって、”形成” の魔術のコツを教わって、二日後には背丈と同じくらいの壁まで作れるようになったんだよね)


レイの教え方は、フローラよりも少しあっさりとしていたが、そのおかげかルシンダは余計な緊張やプレッシャーを感じることなく練習に集中できた。


当時のことを思い返し、ルシンダが懐かしそうに微笑む。


(やっぱり、レイは先生に向いてる気がする)


明日の授業が楽しみだな、と思いながら、ルシンダは鞄から真新しい教科書を取り出した。


えっ、ここは乙女ゲームの世界? でも私は魔術師を目指すので攻略はしませんから

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