その夜、メイは再び副司令官に呼び出された。深呼吸をしてから、
ドアをノックすると、「入れ」という凌の冷静な声が聞こえた。
メイは緊張しながら部屋に入ると、副司令官の凌が冷静な目で彼女を見つめていた。
「今回の件については報告を受けている」と凌は言った。
「だが、鷲尾司令官が言った、
魔獣の呪いを解くとはいったいどういうことなのか、説明してもらおう。」
メイは一瞬ためらい、視線を落とした。「はい…それは…」言葉が詰まり、
どう説明していいのか分からなかった。しかし、このまま黙っておくわけにはいかない。
心を決め、彼女は口を開いた。
「私の夢に魔狼が現れ、私を導いたと言われました。」
凌は眉をひそめた。「夢だと?」
「はい、今日の魔獣も私に呪いを解けと言ったんです」とメイは続けた。
凌は少し困惑した表情を浮かべた。まさか夢の話だとは思わなかったが、
すべてが嘘だとも言い切れない。魔獣がメイを襲わないことを考えると、彼の言うことが本当なのかもしれない。
「呪いを解く方法を知っているのか?」と凌は尋ねた。
メイは首を振りながら答えた。「それが、まだ分からないんです。」
「分からない?」凌の声には疑念が混じっていた。
「はい、その方法までは教えてくれませんでした。」
凌はしばらく考え込んだ後、静かに言った。「夢の話は不可解だが、無視できない。
どんな兆しでも見えたら速やかに報告しろ。」
「はい」とメイは力強く頷いた。
凌はメイの手首や首に縛られ、紫に腫れあがった痕を見つめていた。
彼の表情には深い後悔が浮かんでいた。「霜月、すまない。私があの時、
お前の希望を受け入れていたら、こんなことにはならなかった…」
メイは驚き、すぐに反論した。
「違います、副司令官の責任ではありません!」彼女は手首の痕を隠そうとしたが、
その動きは凌の目を逃れなかった。
凌はさらに深く息をつき、「命の危機を感じたはずだ」と言いながらメイの両手を握った。
メイはその温かさに少し安堵し、「でも、助けにきてくれると信じていましたから」と静かに答えた。
その瞬間、メイの瞳から一滴の涙がこぼれ落ちた。
凌はそれを見て、衝動的にメイを抱き寄せ、「本当にすまなかった」と囁きながら彼女の頭を優しく撫でた。
メイは驚き、「副司令官?」と問いかけた。その瞬間、凌は冷静さを取り戻し、
距離を取りながら「あ、ああ、もう戻れ」と短く言った。
メイは驚きと恥ずかしさを感じつつも、部屋を後にした。一歩一歩が重く、
心の中で様々な感情が渦巻いていた。
凌は独り残され、自分自身に問いかけた。
「私としたことが!なぜあんな事を?」彼は自分の行動に驚き、深く反省した。
そんな時、静寂を破るようにコンコンとノックの音が部屋に響いた。
「入れ」と凌が短く言うと、隊員が一礼して部屋に入ってきた。
隊員は緊張した面持ちで報告を始めた。「報告いたします。鷲尾司令官が自害したそうです。」
凌の眉がピクリと動いた。「何?自害しただと?」
隊員は深く息を吸い込み、言葉を続けた。
「はい。彩の地では、大和副司令官が新たな司令官に任命されるとのことです」
凌は一瞬考え込み、「分かった」と短く答えた。そして、隊員は一礼して部屋を出て行った。
「あの鷲尾が自害しただと?あの時、命乞いまでしていたのに、なぜ急にそんなことを?」と凌は呟いた。
心の中で疑念が渦巻く中、凌は窓の外を見つめた。
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