テラーノベル
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人生で一度も、胸を張って「成功した」と言えることがなかった。勝った記憶も、誰かに選ばれた記憶もない。
だからその広告を見たときも、
最初はどうせ自分とは無関係だと思った。
「〇〇選手、テトリス全国大会優勝!」
画面いっぱいに広がる歓声。
トロフィーを掲げる少年の笑顔。
コメント欄は祝福で埋め尽くされている。
──また、遠い世界の話だ。
そう思って指を動かそうとしたのに、
なぜかスクロールできなかった。
「全国、1位……」
口に出してみると、
その言葉は妙に軽くて、現実味がなかった。
俺は今日も失敗した。
提出期限を忘れて叱られ、
友達と呼べる相手もいないまま家に帰ってきた。
なのに画面の中の誰かは、
同じ年頃で、同じような顔をして、
“人生の正解”みたいな場所に立っている。
──なんで?
嫉妬なのか、憧れなのか、自分でも分からない。
ただ、胸の奥がじわじわ熱くなった。
広告の下には、短い一文があった。
「今からでも、遅くない」
思わず笑った。
遅くないわけがない。
俺は何をやっても遅れて、外れて、負けてきた。
それでも。
その夜、気づけば俺はアプリをダウンロードしていた。
理由は分からない。
期待なんてしていないはずだった。
ただ──
このまま何も始めないで終わる自分が、
一番嫌だった。
チュートリアルのブロックが落ちてくる。
不格好な音。
意味の分からない形。
初戦は、惨敗だった。
それでも画面を閉じることはできなかった。
あの広告の笑顔が、頭から離れなかったからだ。
俺はまだ知らなかった。
この広告を見て、テトリスを始めたのが
俺ひとりじゃなかったことを。
そして、
この選択が、
勝っても救われない未来へ続いていることを。