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私には今、お気に入りのお人形がいる。お腹の大きなフランス人形だ。真っ白い肌に金髪のロングヘアをしたその子を腕の中に抱え込んでベッドの上に座り込むと、私はうっとりとした表情を浮かべながらその柔らかなお腹部分に頬ずりをする。
「今日もよろしくね?」
話しかけるとそれに答えるようにお人形の瞼が開かれる。宝石のようにキラキラと輝く青い瞳を見つめていると吸い込まれそうになる。
『はい』
小さな声で返事をされると私はふふっと笑い声をあげる。まるで本物の人間のように振る舞えるこの子たちを見てるととても不思議な気持ちになって、心がざわつくんだよね。
私がそんなことを考えている間にもお話が続いている。その言葉遣いはどこかたどたどしく、けれど一生懸命に伝えようとする姿は健気だったり愛らしく見えたりするから不思議だ。
しばらく見つめ合ったあと、お互いの顔に触れようと手を伸ばしたけど少し距離があったみたいで届かなかったようだ。
だからと言ってお互いに諦められるわけではない。むしろそれはそれでいいかと思い直してしまえるくらいに愛していた。
しかし今になって冷静になればなるほどに後悔してしまうこともある。
あれだけ大切だったはずなのにどうして忘れてしまったのかと、自分を恨むことも一度二度の話ではなかった。そんな時にふらりとやってきたあの子は、まるで天使みたいだと思ったのだ。いや違う、本当にそうなんだと気づいてからはずっとそう思うようになった。その考えも改めなければならないと思うほどに彼女の美しさに惹かれていくばかりだった。こんな出会いでなければきっともっと幸せになっていたのだと思う。
***
この店に初めて訪れた日のことは今でもよく覚えている。彼女はお世辞にも綺麗とは言えない裏路地にいた。それもかなりひどい臭いのする場所だ。そこにある小さな店の店主として生きていた彼女に話しかけたのはただ単純に美しい人だったから、というのが最初のきっかけだったはずだ。それから何度か顔を合わせるうちにすっかり意気投合し、こうして今の関係になったのだけれど、彼女と出会ったときもそうであったように今も彼女と過ごす日々が楽しく幸せだと思うことができることが不思議で仕方がない。それは私が彼女に惹かれているということももちろんあると思うけど、それ以上に彼女の性格もあるんじゃないかと考えている 初めて出会ったあの日以来、私たちはいつも二人で会うときにはその出会いの場所を選んでいた。今日はその場所で待ち合わせをしていたのだがなかなかやってこないので暇つぶしに過去の思い出に浸っていたというわけだ 約束の時間を5分ほど過ぎても彼女は姿を現さなかった。連絡くらいしてくれればいいのにと思ったところで、そんなものは端から存在していないということを思い出した。きっともうすぐ来るだろうと再び思考の旅へと戻ろうとした時不意に声をかけられた。そこには待ち人である彼女が立っていて
「待たせてごめんね、遅くなって本当に申し訳ないわ。それで何か用かしら?」
そう言ったあと彼女は少し恥ずかしそうな顔をして
「あー、うん。とりあえずここじゃ話しづらいかなって思ってさ、ついてきてくれると嬉しいんだけどいいかしら?」
確かにここは少々狭いし汚いのかもしれないと思いながら黙ってうなずいてみせた。それを見た彼女は満足げに微笑んでから歩き出した。どこに行こうとしているのかわからないが私は素直について行くことにした。しかし彼女は何も言わないままどんどん進んで行ってしまう。しばらく歩くと開けた場所に出た。そこから見渡す風景は美しくとても良い雰囲気の場所ではあったがこんなところまで来た理由が全く思い浮かばなかった 結局ここで一体何をしようというんだろうと思っているとその答えはすぐにわかった。先ほどまでは背筋を伸ばして自信満々に歩いていたというのに急に立ち止まったかと思うとおどおどとした様子を見せ始めた。まるで何か悪いことをした後叱られる前の子供のように不安気な表情をしながらこちらを見てきた これはもしかすると告白だろうかなんてことを考えたりしたがそんなはずもなく、ただ単に謝罪をしたかったらしい。どうしてなのか聞いてみると彼女は自分が勝手にここへ連れて来たことについて謝罪したかったのだという。そういえば今日ここに来ることになったきっかけを思い出す。確か彼女に誘われたのだ、買い物に付き合って欲しいと言われ断ることもできずに連れてこられたというわけだ。まあそういうこともあるよなと考えていれば彼女は話し始めた まずこの公園に来た理由について話すようだ。なんでもここには思い出の場所がありどうしてもその話をしておきたかったのだという。どんな思い出の話をするのか期待しながら耳を傾けていたがそれは意外なものだった。彼女の両親についてのことだ。彼女の両親は彼女が幼い頃亡くなったらしくそれ以来ずっと二人きりで過ごしてきたそうだ。それが辛くないというと嘘になるがそれでも両親の分まで生きていこうと必死になって生きていたらしい。そんな中ある時出会ったのがこの場所だった。彼女と母親が仲良く散歩をしているところに父親がやってきた。二人は意気投合して家族ぐるみで付き合い始めることになる。それからというもの四人で一緒に過ごした日々はとても幸せだったという。
そこまで語ってくれたところで再びごめんなさいと言ってから俯いたまま謝ってきた