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思わず振り返ると、追いかけてきていた覆面男の首と頭に、矢が横から突き刺さっている。
「煜峰殿下!?」
「麗霞!」
2本の矢を同時打ちにした煜峰は、今度は素早く剣に持ち替えて麗霞の方へと駆け寄ってくる。
「大丈夫か?!」
「はい。腿のところを打たれましたが、掠っただけですので……?」
「麗霞?」
かすり傷が付いただけの筈なのに、異様な程に傷口が痛む。
先程までは殺されるかもしれないという恐怖で気が付かなかったが、もう立っていられない。
地面に倒れそうになった麗霞を、煜峰が受け止めた。
周りではまだ戦っているような音が聞こえてきているが、ほとんど勝負は付いているらしい。煜峰が連れてきた仲間に、覆面男たちは次々と捕らえられている。
「麗霞、どうした?!」
「う゛う゛っ……あし……脚が……!」
激しい痛みで上手く喋れない。
太腿を抑える麗霞を見た煜峰が、裙をたくし上げて傷口を見ている。
恥ずかしいなんて言っていられるほどの余裕は無い。全身に脂汗が浮かび上がり、寒気に手足が震える。
「毒か」と舌打ちでもしそうな口ぶりで言った煜峰は、自分の衣の裾を剣で引き裂くと、麗霞の太腿の付け根にキツく巻き付けた。
そんな上等な服を、と抗議したいけれど、上手く言葉に出来ない。何も考えられなくなってきた中でも、次にとった煜峰の行動には流石に声をあげた。
「だめ……だめです……!!」
煜峰は麗霞の傷口に自らの口をあてがうと、強く吸い出して血を吐き捨てた。
「煜峰様! おやめ下さい!!」
「うるさい! 早く馬を用意しろ!」
多分従者の、宜辰の声だ。
あまりの煜峰の剣幕に、宜辰は言われた通りに馬を用意しに行ってしまった。
何度か血を吸い出しては吐き捨てていた煜峰のところへ、馬が連れられてきた。
「麗霞、馬に乗せるぞ」
煜峰の声が聞こえてきが、もう返事をする気力は無い。目線だけで頷き返すと抱き上げられ、馬に乗せられた。馬から落ちないように縄で煜峰と腹を縛られて、密着する。
麗霞の青白くなった顔にふっと笑みがこぼれたのを、煜峰は見逃さなかった。
「おいっ! こんな時に何を笑っているんだ」
「だって……絵の……絵の中にいるみたいな場面だなって……」
ピンチのお嬢様を救う殿方。
一枚の絵のような場面じゃないか。
その中の一人が自分だと思うと、笑わずにはいられない。
「馬鹿か!」
一喝した後、懇願するように言った煜峰の言葉までは、麗霞の耳に届かなかった。
「絶対に死ぬなよ」
***
天幕の中で横たわる麗霞を前に、煜峰は安堵の息を吐いた。
野営地に戻り医者の手当てを受けた麗霞は、今のところ命の危険はないとの事だった。
医者は口元が血で汚れている煜峰を見て、首を振りながら言った。
『応急処置が良かったのでしょう。ですが、たかが官女です。殿下がなさるのには危険すぎます故、他の者にやらせて下さいませ』と。
「全く、何で雲嵐と行動していたんだ?」
独り言のように話しかけてみるが、麗霞は目を瞑ったまま規則正しい呼吸をしている。脂汗で濡れた額を布で拭いながら、やはり麗霞を連れてくるべきではなかったと、己の判断に強く後悔した。
元々麗霞を狩猟大会に連れて来るつもりではなかった。
暁明皇太子が、雲嵐の作品を贈ってきた者に呪符を送り付けて揺さぶりをかけてみると聞いてから、ずっと警戒をしていた。
口封じのために雲嵐を消すか、もしくは暁明皇太子に手をかけようとするか。
警備が厳しい皇宮の中で暗殺するというのは、あまり相手もやりたくは無いだろう。とすると、最もやりやすいのは狩猟大会の時。
山の中では警備も薄くなりやすく、また事故にも見せかけやすい。
雲嵐と暁明皇太子のどちらが狙われるのか分からなかった為、どうしても護衛を皇太子側に多く配置するしかなかった。煜峰も万が一に備えて皇太子と共に行動をし、雲嵐側に何かあった際には笛の音で知らせるよう打ち合わせていたのだ。
危険な状況に晒される可能性がある今回の狩猟大会の要員に麗霞は入れないでおいたのに、姜弘のいつもの我儘により連れて行かざるを得なくなってしまった。今となっては機嫌を損ねようと何だろうと、危険があると知っていた以上は連れてくるべきでは無かったと思うのだが……。
コメント
1件
ああっ、この回めっちゃ熱かった…!煜峰が麗霞の傷口の毒を自ら吸い出すシーン、めちゃくちゃグッときたよ。身分とか関係なく「絶対に死なすな」って本気で動くところがもう最高。 しかも麗霞が「絵の中にいるみたい」って笑うの、危機的な状況なのに主人公らしくて素敵だった。あの場面で笑える強さ、かっこよすぎる。 煜峰の後悔の内省も重くて、読んでてじわじわ来たわ。次が気になる🔥
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