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麗霞には雲嵐に近付かないように言っておいたし、姜弘に付きっきりであれば大丈夫だろうと高を括ってしまったのが更に反省すべき点だ。
緊急事態を知らせる笛の音が煜峰と皇太子一行の耳に届き、向かった先にいた麗霞の姿に驚いた。
皇太子の身の安全を考えれば、雲嵐側に裂ける護衛の人数も質もこちら側の分が悪く、かなり押されている。到着した時には既に雲嵐は絶命した後で麗霞は、目撃者を殺すのみとなった暗殺者の標的にされていた。
既のところで煜峰の矢の的となった男は倒れたものの……。
阻止出来たことに安堵するまもなく、麗霞は顔色を青くして倒れ込み震え出した。
痛いと訴える傷口を見れば、大きく腫れ上がり赤黒く変色している。
毒矢だと瞬間的に判断した煜峰は、麗霞を助けること以外のことは何も考えていなかった。
自分の服を破って毒が回らないよう止血をし、血を吸い出したその後は、馬に乗せて医者のいるこの場所へと急いだ。
生きた心地がしないというのはまさにこの事で、医者から命に別状はないと聞かされるまで、本当に天にいるのかどうかも分からない存在に祈ってしまうほどだった。
「目が覚めたら仕置きだからな」
「んん……」
「麗霞!?」
気だるそうに目を開けた麗霞と目が合う。命の危機は去ったとはいえ、毒が体から完全に無くなったわけではない。顔はまだ健康とは言えないほど青ざめている。
「煜峰殿下……?」
「気分はどうだ」
「ズキズキと痛みますが、なんとか」
身体を起こそうとする麗霞の背を支えてやりながら、病状を説明しておく。
「まだ大きく腫れているが、飲み薬と塗り薬をきちんと使えばじきに良くなるそうだ」
「そうですか。煜峰殿下……その……色々とありがとうございました」
「礼はいい。それより何故雲嵐と、それも2人きりで一緒にいた?」
「雲嵐様に付いていた雨涵が足を挫いて動けなくなってしまったのです。そこで姜弘様が、自分の絵は記録画ではないからと、私を雲嵐様にお付けになったという訳です」
「はぁ……そうか、分かった」
もしあの時、傷を負っていたのが雨涵だったなら、自分はあそこまで必死になって助けようとしただろうか?
もちろん雨涵を見捨てようなどとは思わなかっただろうが、無我夢中で煜峰自ら応急処置をしたのは、間違いなくそれが麗霞だったからだ。
それが何を意味しているのかが分からないほど、煜峰は鈍くはない。
自分の感情に蓋をしようと決意したばかりだというのに、無理やりこじ開けられて直視させられた気分だ。
「煜峰殿下は……」
麗霞の視線が彷徨い、言い淀んだ。
「なんだ? 申してみよ」
「……分かってらっしゃったのですか? 雲嵐様が狙われているって」
あの忠告をされてからの襲撃となれば、分からないわけが無い。下手にはぐらかして麗霞からの信頼を無くしたくなかった煜峰は、正直に答えた。
「すまなかった。雲嵐にも護衛を幾人かつけておいたのだが、相手も相当な手練だったようだ」
「そう……ですか」
麗霞は唇を真横にぎゅっと引き結んだまま、黙ってしまった。
「怒っているのか」
「そうです」
「言い訳に聞こえるだろうが、お前まで危険な目に合わせるつもりはなかった。本来なら狩猟大会に連れてこな――」
「違います!!」
煜峰が話している途中で、麗霞はキッパリと言い切った。
「私が怒っているのは、巻き込まれたからではありません。大会について行くと姜弘様に賛同したのは私ですし、忠告されたのにもかかわらず、雲嵐様について行ったのも私ですから」
「それでは何に腹を立てているんだ」
「それは……煜峰殿下が私に何も教えて下さらなかったからです。巻き込まれたからではなく、巻き込んで下さらなかったから……」
こんなことに巻き込んで欲しいという奴が、どこにいるのだろう。
思いがけないことを言われて、煜峰は目を見開いた。
「私に協力するよう脅してきておいて、なぜ私には何も教えて下さらないのですか? 煜峰殿下には私の考えなど及ばないほど、色々とお考えがあるのは分かっております。ですが……。ですが少しでもお役に立ちたいのです」
言われてみればそうだった。
作品を人質代わりに、麗霞に言う事を聞くよう強要していたはずなのに、いつの間にかそんなことは頭から消えていた。
むしろ首を突っ込んで欲しくはないと思っていた自分に、今更ながら気がついた。
泣きそうに目を潤ませながら見つめてきていた麗霞だったが、目元を手で拭うと肩を落とした。
「なんて……私がこんなだから、殿下が頼って下さらないのですよね。生意気なことを言って申し訳ありません」
「違う。そういう訳ではない。そういう訳ではなく、私は――」
「煜峰……殿下?」
腕の中に麗霞をおさめると、一気に感情が溢れ出てきてしまいそうになる。
皇子とはいえ皇帝から嫌われ、宦官として生きるしかない煜峰に迫られたところで、麗霞だって困るだろう。
それが分かっているから口には出せない。出してはいけない。
「……出発するまでまだ少しある。もう少し休んでいろ」
何か言いたげにもう一度見つめられたが、諦めたように「はい」とだけ返事をした麗霞は、煜峰に背を向けるようにして横になっていた。
コメント
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「巻き込まれたからではなく、巻き込んで下さらなかったから」——この台詞、本当にグッときました。麗霞が煜峰の力になりたいと願う気持ちと、煜峰が彼女を守りたいがゆえに距離を置こうとする葛藤、そのすれ違いが痛いほど伝わってきます。自分で感情に蓋をしたはずなのに、無我夢中で麗霞を救う行動をとってしまった煜峰の苦しさも。ありみさん、この二人の心情描写が本当に素晴らしいです。続きが気になります。
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