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気付けば体育祭の翌日だった。曇り空の下、校舎裏のベンチに腰かけていた陽のもとへ、澪が歩いてくる。
「昨日のリレー、かっこよかったよ」
そう言って笑う澪に、陽はぎこちなく微笑み返した。
「……ありがとう。でも、最後のバトン、ちょっと遅れたなって」
「ううん、ちゃんと受け取ってた。気づいてるでしょ、みんなの目も、私の目も、陽くんをちゃんと見てたんだよ」
その言葉に、陽は何かを言いかけたが、ふいに別の足音が近づく。
「やっぱりいた、佐伯さん」
現れたのは片桐悠真。体育祭で騎馬戦の主将を務めた彼は、汗ひとつかいていないような顔で笑う。
「ちょっと、いい? 昨日の写真、送ろうと思って」
「……うん、ありがとう」
澪がスマホを受け取ろうとしたそのとき、片桐はあえて陽の方へ視線を投げた。
「風間、昨日はお疲れ。あ、リレー……惜しかったね」
その言い方に、陽は目を伏せた。
澪はそんな二人の間に、ふとした違和感を覚える。
片桐はそのままスマホを渡すと、何事もなかったように去っていった。
後に残されたのは、重たい沈黙。
「……ごめんね、あんな言い方されて」
「別に、慣れてるから。俺のこと、別に気にしなくていいよ」
その一言に、澪の胸が少しだけ痛んだ。
“気にしなくていい”なんて、そんな距離じゃなかったはずなのに。
放課後、帰り道。
陽が図書館に立ち寄ると、そこには柚葉の姿があった。
静かに本を開いているその姿を見て、陽は声をかける。
「お、柚葉ちゃん」
「風間先輩……あ、こんにちはっ」
柚葉は少し慌てながらも笑顔を見せる。
「今日は何の本?」
「えっと、推薦入試の小論文集です。まだ受けるか決めてないけど、見ておこうかなって」
「えらいな。俺はそっち系まだ全然だから、逆に教えてほしいくらい」
「ふふっ、先輩に教えるなんて、まだ早いですよ」
そんな会話の中、柚葉は陽の顔をじっと見つめた。
その瞳に宿る小さな迷いに、陽は気づかない。
一方、藤堂花は、教室の窓辺でノートをめくりながら、小さくつぶやく。
「……風間くん、最近ちょっと元気ない?」
そう言って、そっとペンを置いた。