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#おんりー
ゼオ氏
165
202
#おおはらMEN
ドズル社好き
107
#おんおら
ドズル社好き
1,226
雨音は、まだ止んでいなかった。
おんりーの手の中で、スマートフォンが震えている。
画面に表示された名前を見て、おんりーは小さく息を吐いた。
「……ごめん。ちょっと出る」
「うん」
おらふくんは、いつも通りの笑顔で頷いた。
いつも通り。
そのはずなのに。
さっきまで自分をまっすぐ見つめていた瞳が、今はどこか遠くに感じられた。
おんりーは少し離れた場所へ移動し、電話に出た。
「もしもし?」
『おー、今大丈夫?』
知り合いからの、何気ない連絡だった。
急ぎの用事でもなければ、深刻な話でもない。
ただ、少し確認したいことがある。それだけ。
「うん、大丈夫だけど」
そう答えながら、おんりーはちらりと振り返った。
屋根の下。
おらふくんが、ひとりで立っている。
自分の上着を着たおんりーを見送ったあと、彼は濡れた前髪を指で整えていた。
その横顔を見た瞬間、胸の奥がきゅっと縮まった。
——さっき、何を聞かれたんだっけ。
『おんりー? 聞いてる?』
「あ、ごめん。聞いてる」
電話の相手に返事をしながらも、頭の中は別のことでいっぱいだった。
『なんか今日、元気なくない?』
「……そう?」
『そう。なんかあった?』
「いや、別に」
別に、なんて。
本当は、言いたいことが山ほどある。
好きな人が目の前にいること。
その人の上着を借りていること。
そして、さっき。
あと少しで、自分の気持ちを伝えられそうだったこと。
「……また今度、話すわ」
そう言って電話を切った。
画面が暗くなる。
おんりーはスマートフォンをポケットにしまい、ゆっくりとおらふくんのもとへ戻った。
「ごめん、待たせた」
「ううん。大丈夫やで」
おらふくんは笑った。
けれど、おんりーには分かってしまった。
その笑顔が、ほんの少しだけ無理をしていることに。
「……さっきの話なんだけど」
おんりーが切り出すと、おらふくんの肩がわずかに揺れた。
「ん?」
「俺が、おらふくんのことどう思ってるかって話」
言った。
言ってしまった。
ここで黙ったら、またいつものように何も言えなくなる。
おんりーは借りた上着の袖を、ぎゅっと握った。
「……あれ、なんで聞いたの?」
おらふくんはすぐには答えなかった。
雨が、屋根を叩く。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
やがて彼は、困ったように笑った。
「……気になったから」
「何が?」
「おんりーちゃんの好きな人」
「……っ」
「どんな人なんかなって。俺の知ってる人なんかなって」
おらふくんは視線を落とした。
「……それに」
言いかけて、止まる。
「それに?」
「……いや。なんでもない」
まただ。
おんりーは唇を噛みそうになるのを、必死でこらえた。
どうして、そこでやめるんだ。
どうして、肝心なところだけ隠すんだ。
——俺ばっかり、好きみたいじゃん。
そんな考えが頭をよぎって、慌てて打ち消す。
違う。
おらふくんだって、何かを伝えようとしてくれていた。
さっきの言葉を思い出す。
『俺が思ってるより、特別?』
あれは、一体どういう意味だったんだろう。
「……おらふくん」
「ん?」
「俺の好きな人、知ってるって言ったら?」
おらふくんの表情が、ぴたりと止まった。
「……え?」
「知ってる人だよ。おらふくんも」
心臓がうるさい。
こんなに緊張するなら、もういっそ全部言ってしまいたい。
けれど、もし違ったら。
もし、おらふくんが自分のことをただの相棒だと思っていたら。
今までの関係に戻れなくなるかもしれない。
おんりーは、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「……すごく近くにいる人」
おらふくんは黙っていた。
その沈黙が怖くて、おんりーは慌てて言葉を足す。
「だから、別に……言いたくないとかじゃなくて。タイミングが、分かんないだけで」
「……おんりーちゃん」
「ん?」
「その人ってさ」
おらふくんは、ゆっくりと顔を上げた。
「……俺のこと、なん?」
——え。
時間が止まった。
雨音も、遠くを走る車の音も、全部聞こえなくなった気がした。
おんりーは目を見開いたまま、何も言えなかった。
だって。
そんなこと。
そんなこと、聞かれるなんて思っていなかった。
「……っ、な、なんで」
「ごめん! 違ったらほんまごめん!」
おらふくんは慌てて両手を振った。
「いや、その……さっきから話聞いてたら、なんか……俺のこと言ってるみたいに聞こえて」
「…………」
「でも、そんなわけないよな。ごめんな、変なこと聞いて」
違う。
違わない。
むしろ、どうして今まで気づかなかったのかと思うくらい、答えはずっとひとつだった。
けれど、おんりーの口は動かなかった。
おらふくんが、苦笑する。
「……やっぱ、違うか」
その声が。
あまりにも寂しそうで。
おんりーは、思わず手を伸ばした。
「……違うって、言ってない」
おらふくんが顔を上げる。
「え?」
「だから……違うって、言ってないだろ」
声が震えた。
自分でも驚くほど、小さな声だった。
それでも、おらふくんには届いたらしい。
「……おんりー。それって」
「……っ、今、聞くな」
「ええ!?」
「だって……!」
おんりーは顔を伏せた。
頬が熱い。
恥ずかしい。
逃げたい。
でも、逃げたくない。
「……こんなの、言うつもりじゃなかったんだよ」
「……うん」
「ずっと、言えなかった」
おんりーは、借りた上着の袖を握り直した。
「相棒じゃなくなるのが怖かったから」
おらふくんの目が、大きく揺れた。
「……っ」
「おらふくんと一緒にいるの、好きだから。今の関係が壊れるのが嫌で……だから、ずっと黙ってた」
一度言葉にしてしまうと、もう止められなかった。
「でも、最近ちょっと距離置かれて……俺、何かしたのかと思った」
「……ごめん」
「おらふくんがいないと、なんか調子狂うし。話したいことあっても、最初に思い浮かぶのはおらふくんだし……」
おんりーは、そこで言葉を切った。
これ以上言ったら、本当に全部伝わってしまう。
いや。
もう、とっくに伝わっているのかもしれない。
「……だから」
顔を上げる。
目の前には、大好きな人がいた。
「……好き、なんだよ」
静寂。
雨音だけが、ふたりの間を埋めていた。
おらふくんは、しばらく何も言わなかった。
おんりーは、その沈黙に耐えられず、慌てて口を開く。
「……あ、いや、今のは、その……!」
「……ほんまに?」
おらふくんの声が、かすれた。
「……俺のこと、好きなん?」
おんりーは目を閉じた。
そして、小さく頷いた。
「……うん」
その瞬間。
おらふくんが、片手で口元を覆った。
「……うそやん」
「……は?」
「うそやん……」
笑っているのに、泣きそうな顔だった。
「……俺、ずっと……」
おらふくんは、言葉を探すように何度も息を吸った。
「……俺も、好きやった」
おんりーは顔を上げた。
「…………え?」
「ずっと好きやった。おんりーのこと」
「…………は?」
「え、待って、俺もびっくりしてる! なんでおんりーまでそんな顔するん!?」
「いや、だって……!」
「俺、てっきり他に好きな人おるんやと思ってたから……応援するって言ったやん、俺……!」
「……あれ、そういう意味だったの!?」
「そういう意味って!?」
ふたりは同時に口を閉じた。
そして。
どちらからともなく、笑ってしまった。
今まで何日も、何週間も。
相手の気持ちを知らないまま、ひとりで悩んでいた。
たった一言、聞けばよかったのに。
たった一言、伝えればよかったのに。
「……俺ら、何やってたんだろうな」
おんりーが呟く。
「ほんまやで……」
おらふくんも笑った。
けれど、すぐにその表情が少し真剣になる。
「……なあ、おんりー」
「……ん?」
「ひとつだけ、聞いてもいい?」
「……何」
おらふくんは、そっと手を差し出した。
触れるか、触れないか。
その距離で、止める。
「……今、手つないでもええ?」
おんりーの胸が、どくんと鳴った。
いつもなら、きっと「なんで」とか「別にいいけど」とか、照れ隠しをしていた。
でも、今は。
「……聞かなくても、いいのに」
そう言って、おんりーは自分から手を伸ばした。
指先が触れる。
それから、ゆっくりと手のひらが重なった。
おらふくんの手は、あたたかかった。
「……嫌じゃない?」
「……嫌だったら、つないでない」
「……そっか」
おらふくんが、嬉しそうに笑う。
その笑顔を見たら、おんりーもつられて笑ってしまった。
まだ、恋人になったわけじゃない。
好きだと伝え合っただけ。
これからどうするのか、ちゃんと話さなければいけないこともある。
それでも。
今までずっと言えなかった気持ちが、ようやく相手に届いた。
それだけで、世界が少し違って見えた。
……と思った、その時。
おらふくんが、つないだ手を見つめながら、ぽつりと言った。
「……あのさ」
「……何?」
「俺、今めっちゃ嬉しいんやけど」
「……うん」
「……もうちょっとだけ、こうしててもええ?」
おんりーは、耳まで真っ赤になった。
「…………好きにしろ」
「ふふっ、ありがとう」
「……笑うな」
「笑ってへんよ?」
「笑ってるだろ」
「嬉しいからしゃーないやん!」
「……っ、うるさい」
そう言いながらも。
おんりーは、つないだ手を離さなかった。
雨は、まだ降っている。
けれど、もう少しだけ、このままでいたかった。
大好きな人の隣で。
大好きな人の手を握って。
ようやく、同じ気持ちだと知れたから。
第4話・終
次回、第5話「恋人、って呼んでもいい?」
コメント
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第17話読み終わった…! 両片思いのもどかしさがずっと続いてたから、ようやく通じ合えた瞬間はマジで胸熱すぎてやばかったわ。雨のシーンと手を繋ぐラストの甘ったるさが最高で、思わずニヤけた。おんりーの勇気もおらふくんの照れ隠しも全部尊い。次回タイトル「恋人って呼んでもいい?」にもう期待大です。素敵な話をありがとうございます🔥