テラーノベル
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瑠璃マリコ
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苡 咒 。
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ぴちゃぴちゃと響く水音が脳を犯していく。
私は狂ってしまったのか……
元彼との行為を気持ち良いと感じたことはなかった。直接与えられる愛撫に濡れることはあった。でも、脳が痺れるような快楽を感じたことはなかった。それなのに、内から広がる熱を抑えることが出来ない。
「………うっ…あぁっ………」
目の前の彼が漏らすくぐもった声を聴くたび、奥底が疼いて仕方ない。愛撫を与えているのは確かに私だ。触るのを嫌悪するかのように彼は指一本私に触れていない。
ただ、逃げようと思えば逃げられるのに、そうしない彼の行動は矛盾している。本当に嫌なら突き飛ばして逃げればいいのに、睨むだけで何の行動も起こさない。女の私には彼を押さえつけるだけの力はないというのに。
だからこそ無言の免罪符を手に入れた私の行動はエスカレートしていく。
あのゾクゾクするような屈辱に濡れた瞳に貫かれたい。支配しているようで、彼の強い瞳に支配される不思議な感覚が私に愉悦を与えていた。
「貴方は被害者よね。寂しい女の慰みモノになるのだから……。その屈辱に濡れた瞳。好きよ」
顎に手を添え、指先で彼の唇をなぞる。薄い唇がわずかに開き歯がのぞく。歯列を指先で撫でればゆっくりと開いていく唇に深く唇を合わせ、舌先をスルッと滑り込ませた。
歯列をなぞり、逃げる舌を追いかけ無理矢理舌を絡める。含み切れなかった唾液が彼の顎を伝い首筋へと流れていった。
彼はどこまで我慢出来るのかしら?
下腹部に当たる男性器はスラックスの下で明らかに自己主張をしている。ベルトのバックルに手をかけ外すと、ファスナーを焦らすようにゆっくりと下ろす。下着に隠された屹立を手のひらで優しく押しつぶせば、彼の唇からくぐもった声が響いた。
「ねぇ……、好きでもない女の愛撫でも感じてしまうのね。そろそろ負けを認めなさいよ。快楽に身を任せた方が楽になれるわよ。だって貴方は私に襲われているだけ。被害者なんだもの」
耳元で囁く私の声は悪魔の呟き。しかし、頑な彼の心は折れない。きっと彼は私を嫌悪しているのだろう。
嫌いな女からの愛撫にも感じてしまう未熟な身体が愛おしい。
さて、どちらが先に根をあげるか?
彼が私を襲えば私の勝ちだ。だから欲望を煽ってやる。
欲望に負け、嫌悪する女を襲う肉食獣のような彼に犯されたい。私を欲しがり、貪ってほしい。それが、寂しい私の望み。
だから遠慮はしなかった。
下着を降ろせば、硬度を増した屹立が飛び出してくる。
「……ふふ、若いって良いわね」
長大で脈打つ屹立はグロテスクで可愛らしさのカケラもない。けれども、手を添え、先端を口に咥えてやれば、ビックっと反応し、さらに硬度を増す姿はなんだか愛おしい。
薄ら生える陰毛から先端に向け舐め上げる。耐え切れず漏れた低い喘ぎ声に、背中がゾクっと震えた。
流石に全ては含みきれない。舌を鈴口に絡ませ両手で扱き上げれば、硬度を増した屹立の先端からあふれた液体が口内に独特な苦味を広げた。
猫がミルクを飲む時のようなぴちゃぴちゃと響く水音と艶めいた喘ぎ声が混ざり合い、その場の空気が淫靡なモノへと変わっていく。
増していく官能……
一瞬だった。
急な浮遊感と反転した視界に彼に担ぎ上げられたと知った。
揺れる視線の先は真っ白な天井。バフっと投げ落とされた先がベットの上だと気づいた時には、のし掛かって来た彼に唇を塞がれていた。
両手をシーツに固定され、歯列をこじ開け侵入した彼の舌に口腔を犯される。噛みつくようなキスに口内が切れた。
鉄錆味の唾液が広がっていく。
この痛みは罰。だから、優しくしなくていい……
「……煽ったのはお前だからな」
「ふふふ、そんな男の顔もできるのね……」
彼の頬を撫でた指先が捕まる。痛いくらいの強さがむしろ心地良かった。
早急な手つきで、ワンピースの裾をたくし上げた彼は躊躇なくストッキングを破る。そして下着を引き下ろされると同時に感じた違和感。口にコンドームを咥え封を切った彼の姿は、手慣れているように見える。まさかね……
しかし、頭によぎった違和感も次に起こった衝撃に霧散して消えた。
下腹部に感じる痛みを凌駕する圧倒的な快楽の波。疼き続けた最奥に撃ち込まれた強烈な刺激に蜜道が歓喜に震えた。
痛みと共に与えられる快楽は私が望んだもの。元彼に捨てられてポッカリ空いた穴を埋めてくれる狂おしいまでの欲望。――しかし、心は満たされない。
始めから分かっていた。
誰に元彼を重ねた所で心は満たされない。
激しく揺さぶられ与えられる快楽とは裏腹に冷えていく心。
罰なのだ……
彼を騙し、彼の純粋な心を弄んだ私に対する罰。
だったら最後まで酷い女であるべきだ。
心優しい彼が心底嫌う悪女のままで。
「……ははっ!」
「何がおかしい……」
怒りを宿した瞳で睨まれる。
「私の勝ちね。嫌だ嫌だと言いつつ、結局貴方は欲望に負けたのよ」
「――くそっ!」
激しくなっていく律動。
冷えていく心。
それで、いい……
♢
目を覚ませば隣はもぬけの殻だった。窓から差し込む陽の光が身体を包み、少しだけ気分が晴れるような気がした。
最後まで彼の名前を知ることも、私の名を告げることもなかった。一夜のアバンチュールは心に苦い想いだけを残し終わりを迎えた。
純粋な彼を傷つけた罪悪感と、騙してまで欲した幸福感を得られぬ絶望を胸に、三十歳を迎えた朝は過ぎていく。
彼とはもう会うことはないだろう……
コメント
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第7話読みました……。心がギュッと苦しくなりました。身体は繋がっているのに心は満たされない、その温度差が切なすぎます。「罰なのだ」と自分に言い聞かせる彼女が、実は誰より傷ついているんだろうなって伝わってきて……。行為の描写は濃密なのに、そこに愛がない寒々しさが際立っていました。30歳の朝、彼と二度と会わないだろうというラストも余韻が深いです。続きも気になります。