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教授と別れた月曜日、罪悪感の一欠片を、私は日暮れと共に捨てた。
別れ際、教授は駅の改札口で私を呼び止めた。
「なに?」
振り返ると、教授の真っ直ぐな瞳が私を捉えていた。
しばらくの沈黙は、冬空のグレイみたいにぼやけた感覚で、突き刺さる視線はお日様みたいな温もりを与えてくれた。
教授はすこしだけ笑って。
「ううん。なんでもない」
と、言って手を振った。
私も同じように、
「ばいばい」
と、笑ってみせた。
あれから半年が過ぎて、私は今働いている。
朝の満員電車に揺られて、有明にあるコールセンターでアルバイトをしながら生計を立てている。
夫とは別れた。
案外すんなりと話は進んだ。
夫も色々考えていたのだろうか、最後まで本音でぶつからないままに、結婚生活は終わってしまった。
教授とは会っていない。
会わないでいる方が幸せになれる気がしたから、メールも消してSNSも退会した。
私の中で、ひとつだけ変わった事がある。
恋をしたいと思うようになったのだ。
そこにはセックスがつきまとうだろう。
でも、自分をさらけ出せる恋が出来たなら、何にも問題はないと思えるようになった。
時間はかかるかも知れないけど。
もうすぐ梅雨が訪れる。
新居のマンションの花壇には、色鮮やかな紫陽花が咲いている。
『でんでん虫』を探す心の余裕も出来た。
ハクセキレイが現れる頃には、素敵な恋をしていたいなと思う。
だって、私の人生はこれからなんだから。
おしまい。