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解釈違いにお気をつけて。
「イギリス!プレゼント交換をしよう」
「…はい?」
彼の思いつきは毎度突拍子もない。
「今日は2人ともフリーだろう?」
「久しぶりにやろうじゃないか」
彼に座右の銘があるならば、間違いなく「思い立ったが吉日」だ。
一通り言い終わった頃には、いそいそと食器を片付け出かける準備を始めている
食卓に1人残された私は、その後ろ姿に呆れつつ紅茶を飲み干す。
「まったく…」
しかし、心なしかワクワクしている自分がいた。
私は色鮮やかな商店街に出向いていた。
お茶菓子、雑貨、文房具…
視線をショーウィンドウやそこから見える店内に向けながら歩いていく。
しかし、これと言ってめぼしいモノはない。
次々と物色を続けていく。
先の店へと視線を動かすと、ガラス一枚隔てたそこには、水色の瞳を持ったティディベアが鎮座していた。
前回のプレゼント交換は、去年のクリスマスだった。
あの日も今日みたいにプレゼントに困ってしまい、最終的に行き着いたこの店で、彼そっくりな碧い眼のティディベアを買って行った。
その夜彼が「イギリスにそっくりの」と言ってティディベアを渡してきたのには、ビックリしつつ幸福感で満たされたことを覚えている。
その後「ドイツにそっくりの」と渡したティディベアを見て、苦笑しつつもありがとう、と笑った彼の顔もよく覚えている。
「さて、どうしたものか…」
店から離れた後も、あの水色が頭を支配している。
去年彼が買ってきたティディベアと同じ
私の眼の色
「……そうか」
やっと彼へのプレゼントが決まった。
いっときの感情に身を任せるべきではなかった。
ベットの上で1人、過ぎた後悔をしている。
21時になり、彼は私を寝室へと連れ込んだ。
「プレゼント交換の時間だ」
私にベットの上で待つように言い、部屋を出ていく。
後手に隠した彼へのプレゼント。
今になってそれを渡すことに抵抗を覚えた。
(いいのだろうか)
彼とは恋人関係にあるが、しばしば気持ちの重さに違いを感じる。
彼の抱く「愛してる」と私の抱く「愛してる」は、言葉は一緒でも明確に違う。
こんな重い感情を、彼は果たして受け入れてくれるのだろうか。
私の気持ちは迷惑ではないだろうか。
鎖のように繋がっていくネガティブな思考は、彼の軽快な足音で途絶えた。
「さあ、俺からのプレゼントだ!」
渡されたのは、それなりの大きさの箱。
ラッピングを丁寧に解いていく。
「…これは」
箱の中に入っていたのは、灰色のパジャマだった。
「どうだ?店の人に色々訊いて、君と俺に一番似合う色にしたんだ」
「君と俺…?」
「ああ!実は自分の分も買ったんだ」
ほら、と目の前に広げられたのは、私へのプレゼントと全く一緒のパジャマだった。
お揃い。なんと嬉しいプレゼントか。
「そうか……」
「気に入ったか?」
「ああ、とても!」
それは良かった!と笑う彼に、恐る恐る後ろに隠していた小さな箱を渡す。
「君からのプレゼントか?」
「ああ。…開けてみてくれ」
期待の目で包装の紐を解く彼とは対照的に、私の心臓は早鐘を打っていた。
「……」
続く言葉がないことに、失敗を悟る。
「イギリス…」
顔をあげると、彼は頬を紅潮させて箱の中を覗いていた。
「……」
「なんて素敵な贈り物なんだ!」
「え…?」
思いがけないその言葉に固まってしまう。
「何の宝石かはわからないが、透き通るような水色も、綺麗なカットも」
「君を見てるみたいだ」
…君ってヤツは本当に!!!!
「…つけてあげよう」
「本当か?!ぜひ頼む」
無防備に差し出された顔に、衝動を理性で抑えながら近づく。
ゆっくり、優しく。
キラリと光を反射して、水色のピアスが揺れた。
「…ついたよ。反対もつけるから…」
「俺がつける」
箱からもう片方のピアスを取った彼は、自身ではなく私に手を伸ばした。
なんとなく予想はしていたので、そのまま顔を横にして受け入れる。
「できたぞ!」
そう言って彼は私に抱きついてきた。
ぎゅっと腕をしめられたので、呼応して私も抱きしめる。
彼から与えられる暑いくらいの温度に、全身が弛緩していく。
「…ありがとう。大好きだ」
耳元でそう囁かれて、顔に熱が集まる。
とうとう我慢できず、私は顔をグッと近づける。
最後まで、彼に振り回されてしまった。
「愛してるよ、ドイツ」
あとがき
↓選ばれなかった贈り物たち
腕時計
ブックカバー
ネクタイピン
指輪