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#アラスター
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店員さんが落ち着いたところでガーデンに案内してもらう。
「、、綺麗、だな。」
気付いた時には口の端がムズムズとしていた。吸い寄せられるように花の香りがより強い方へと進んでいく。
後から続いた店員さんは苦笑しながら「飲み物を取ってきますね」と言って踵を返した。
ぱたんと閉じる音を聞いてから大きく伸びをする。
何も考えずに花を見るこの時間が好きだ。
秋薔薇にコスモス、サルビア、色とりどりの花々が柔らかな日差しを浴びて光っている。
最後に来た時と花の種類は変わっている。でも、この気安い雰囲気が昔と何一つ変わっていなくて、安心した。
まだ、ここは俺の居場所なんだ。
「、こちらにどうぞ。」
いつの間にか帰ってきた店員さんが椅子を引いてくれる。
昔はこんな気遣いなんてできなかったのに今ではすっかり様になっていて。
俺も、彼も、もう大人なんだ。その距離に気付いて、少し、ほんの少しだけ寂しくなる。
「…ねぇ、店員さん」
向かいの席に座った店員さんはカップに口を付けてなんだ、というように視線をよこす。
「今日から、俺ここに泊まっていいですか?」
一泊遅れて店員さんの口から勢い良く紅茶が飛び出す。
ぎりぎり俺にかからなかった紅茶はすぐ横のカーテンを濡らして被害に収集をつけた。
「ちょ、、大丈夫ですか?」
ハンカチを差し出すと遠慮などみじんも感じさせない態度で店員さんは奪い取った。
「げほっ、ごほっ、、急にそんな、ことっいうから、こうなってんだよ」
店員さんはごしごしとハンカチで口元を拭ってはぁーっとため息を吐いた。どうやら怒らせてしまったらしい。
「そんな変なこと言いました?俺。」
「言いましたよ」
店員さんは睨みつけながらハンカチの面を変えて綺麗にたたみ、俺に押し付ける。
早々に誤解を解く必要がある。そんな、久しぶりに会った友人とはっちゃけたいわけではないのだ。
「まぁ、俺最近会社で地域を盛り上げよう!みたいな仕事任されててね、○○って雑誌の会社勤務なんだけど」
「へぇ~よかったですね」
鞄から取り出した資料を渡す。この企画は簡単に言うとこの広い〇〇市内の中で最も人口減少が酷い、この地区の復興だ。
ぱらぱらとページをめくった店員さんは興味なさげに資料を俺に返す。
「ふ~ん。で、これがさっきの発言とどう繋がるんですか」
仕事の話だ、ちょっと考えてから言葉を紡ぐ。
「うーん、連日リポートって仕事だからかなりここらに滞在しないといけないわけだけど、俺の家は市外にあるんですよね。」
にこっと笑ってそう言えば店員さんはやっと理解したかのようにひくひくと顔を引きつらせる。
「出費はできるだけ押さえたいし、、昔からの知り合いってことでお部屋、貸してくれません?」
「そんな、、昔からっつったってここ最近は音信不通だったじゃないですか」
呆れたように店員さんは言葉を返す。ここまで想定通りだ。
そこでちょっと言い方を変える。
「そっちにも利点はありますって。ここの紹介とかしてもらえるし、うちの会社意外と大手なんで宣伝効果もアップ!
泊まらせてくれた時には朝昼晩毎食作りますから。たった3日です、お願いしますよ~」
このヘラヘラ笑いは営業をやっていた時に身に付けたものだ。上司には胡散臭いと言われるがこれがまぁ役に立つのだ。
「…はぁ、仕方ないですね。泊めんのは3日だけですよ」
ほらいけた。大体この人は、いつも押しに弱いのだ。
「マジですか!ありがとうございます!じゃあせっかくなんでそろそろ敬語外しませんか?」
「え。」
「だってほら、何年か一緒だったのに未だお互いの名前知らないよね?」
「ま、まぁ確かに」
本当に不思議なことに俺たちはお互いの名前も、年も、何もかも知らない。
ただ、彼は花屋をやっていて俺はそこの常連だっただけなのだ。
「はぁ、、俺、黒瀬瓜李。じゃ、あよろしくなお客さん」
ふいと視線をそらして言った彼の視線に割り込むようにしてじっと見つめる。
「お客さんじゃなくて”友達”、でしょ?俺の名前は灰原弘呂、だから!よろしくな!」
「もうさ、、はぁ、仕方ないなぁ」
そういった瓜李さんの瞳が切なげに揺れていたのは気のせいだろうか。
かなり遅れた投稿でした。あともう一つめっちゃ短いエピローグ書こうと思います。
この作品で多分私の全ての作品(雑談以外)の更新は終わると思います。
長い文章、お疲れ様でした