テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
舞踏会のきらびやかで毒気を含んだ喧騒を背に
夜の帳が深く下りた王都の道を、公爵家の漆黒の馬車が滑るように進んでいた。
車内は、先ほどまでの熱い吐息と、耳元で交わされた熱烈な独占欲が嘘のように静まり返っている。
けれど、向かい合わせの座席に座るルネサンスの蒼い瞳は、暗闇の中でも鋭い銀光を放ち
まるで獲物を狙い定めた鷹のように、執拗に私を凝視し続けていた。
(……首筋が、まだ、熱い。彼が触れた場所が、焼けるように脈動している)
彼が唇を寄せた場所が、今も彼の温度を記憶しているかのようにドクドクと拍動を刻んでいる。
私はいたたまれなくなり、窓の外の流れる闇へ視線を逃がそうとした。その時だった。
───ガツンッ、と。
世界が反転するような衝撃と共に、私の心臓を直撃する激しい震動が馬車を襲った。
悲鳴を上げる間もなく、巨大な馬車が石畳の上で横転する。
「ヴィル……っ!私から離れるな」
咄嗟にルネサンスが私の体を力強く抱き寄せ
その強靭な腕と背中で凄まじい衝撃のすべてを受け止める。
砕け散った窓ガラスの破片が星屑のように夜空に舞う中、私たちは大破した馬車の残骸から這い出した。
静寂を切り裂いて聞こえてきたのは、冷たく、鼓膜を逆撫でするような歪な笑い声だった。
「──やはり、君の側にいるその娘が、難攻不落の公爵に生じた唯一の綻びだったか。ルネサンス」
闇の向こうから、霧のように形を成して現れたのは、漆黒のローブを纏った一人の男だった。
彼が杖を高く掲げた瞬間、周囲の温度が異常なほど跳ね上がった。
それは、ルネサンスを毎夜地獄の底へと突き落とす、あの「呪いの熱」そのものだった。
「……バルザール。やはり、生きていたか。貴様だけは、この手で地獄へ送るべきだった」
ルネサンスの声が、かつてないほど低く、地の底を這うような殺意に満ちて響く。
バルザール───ルネサンスの父の代からの因縁を持ち、一族を呪縛し続ける亡国の魔術師。
彼は、恐怖に身をすくませる私を獲物として値踏みするように見つめると、その薄汚い笑みを一層深くした。
「その娘の魔力が、君の寿命を辛うじて繋ぎ止めていたのだな。ならば、その導火線を断てば、君の命は今夜という夜を越えることなく、灰となって燃え尽きるというわけだ」
男が指先を僅かに振るうと、空気を切り裂く見えない衝撃波が私を襲った。
吹き飛ばされそうになった私の体を、ルネサンスが咄嗟に背後から抱きとめる。