テラーノベル
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だが、彼に触れた瞬間、私は喉元まで出かかった悲鳴を必死に飲み込んだ。
「閣下……!体が、燃えています……!これでは、貴方が…っ!」
彼の肌は、すでに通常の人間が生存できる限界の温度を超えていた。
呪いの首謀者が近づいたことで、彼の内で眠っていたはずの封印が解かれて呪いの熱が暴走を始めたのだ。
彼の漆黒の軍服が内側から焦げ、プラチナブロンドの髪が陽炎のように揺らめいている。
「離れていろ、ヴィル……ッ、これは、私の血筋が招いた問題だ。君を、これ以上に巻き込むわけにはいかない」
「は、離れません…!今私が離れたら、貴方は本当に、独りで燃え尽きてしまうわ!」
私は、手の平を焼き切られそうな激痛を堪えて、彼の背中に必死にしがみついた。
私の魔力を無我夢中で流し込むことで、彼はかろうじて意識の断片を保っている。
ルネサンスは苦痛に貌を歪めながらも
私を守るようにその大きな体で盾を作り、前方の敵を見据えた。
「くくく……。嘘つき令嬢と冷徹公爵の、なんと美しい愛の姿だな。だが、慈悲としてその呪いを解く唯一の方法を教えてやろう。それは───『命を懸けて守りたい存在との真実の口づけ』だ」
「愛を解さぬ氷の公爵には不可能な話だ」
バルザールの嘲笑が、死の宣告のように夜の荒野に響き渡る。
ルネサンスの腕が、びくりと跳ねた。
命を懸けて守りたい存在。
契約結婚、金のための嘘、互いの利益のみを追求した仮面夫婦。
そんな虚飾と言葉遊びで塗り固めてきた私たちの関係に
その「答え」が存在するはずがないと、誰よりも彼自身が一番理解しているはずだった。
「……ヴィル、聞け」
絶叫に近い熱気の中で、ルネサンスが掠れた声で私を呼んだ。
彼は、震える指先で私の頬を包み込み
もはや焦点の合わない、けれど激しく燃える蒼い瞳で私を真っ直ぐに見つめる。
「……逃げろ。君だけは、……この呪われた契約からも自由になれ。……君に、死を共にする義務などない」
「嫌です……!お互い様だって貴方が言ったのではありませんか……!」
涙で視界が激しく滲む。
彼を内側から蝕む劫火が、触れ合っている私にまで移り、私の魂までをも焼き尽くそうとしている。
けれど、不思議と怖くはなかった。
この耐え難い熱こそが、彼がこれまでたった独りで
誰にも見せず耐え続けてきた孤独の重さなのだとしたら。
私は地獄の底まででも付き合ってやろうと──
そんな、契約書のどこにも記されていない「真実」が、私の胸の中で、今、産声を上げていた。
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