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【短歌】
偶然を装うための遠回り今日も君いる道を選んだ
【短歌をテーマにした物語】
私は、最近少しだけ帰り道を変えている。
本当なら、駅までまっすぐ歩けば十五分。
でも今は、わざわざ商店街を抜けていく。
時間にすれば、十分くらい余計にかかる。
それでも私は、その道を選ぶ。
理由は簡単だった。
その道を通ると、君に会えることがあるから。
最初は、本当に偶然だった。
ある日の放課後。
商店街の角を曲がったところで、君が自転車を押して歩いていた。
「あれ?」
君も私に気づいた。
「こんなところで会うなんて、偶然だね」
「うん、偶然」
私は笑って答えた。
その日の帰り道は、いつもより少し楽しかった。
翌日。
私はまた同じ道を通った。
君はいなかった。
少しだけ残念だった。
でも、その翌日。
「また会ったね」
君が笑った。
「ほんとだね」
私は平静を装った。
心の中では、昨日よりずっと嬉しかった。
それから、何度か君に会った。
会うたびに、少しずつ話す時間が増えていった。
「今日は部活?」
「うん。そっちは?」
「委員会だった」
「大変だね」
「君もね」
たったそれだけの会話。
でも私は、家に帰ってから何度も思い出した。
君が笑ったこと。
私の名前を呼んだこと。
「またね」と言ってくれたこと。
そんな小さなことが、一日の中で一番大切なものになっていった。
ある日、いつものように商店街へ向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ねえ」
振り返る。
君がいた。
「最近、この道よく通るよね」
「えっ」
胸が跳ねた。
「そうだっけ?」
「うん。結構見るよ」
私は言葉に詰まった。
どうしよう。
もしかして、気づかれている?
君は少し考えるようにしてから言った。
「もしかして、この道好きなの?」
「……うん」
私は嘘をつかなかった。
「好き」
「そっか」
君は笑った。
それから、少し間を置いて。
「じゃあ、今日も一緒に歩こうか」
「え?」
「駅まで」
私は驚いて君を見る。
「いいの?」
「もちろん」
二人で並んで歩き始める。
商店街の店先から、夕飯の匂いが漂ってくる。
いつもなら少し遠いと感じる道なのに、今日はあっという間だった。
駅が見えてくる。
「じゃあ、また明日」
君が言う。
「うん。また明日」
手を振って別れる。
私はその背中を見送りながら、少しだけ笑った。
もう、偶然ではない。
明日もきっと、この道を通る。
君に会えるかもしれないから。
そしていつか。
この遠回りを選んでいる理由を、ちゃんと言える日が来たらいいと思う。
――本当は、道が好きだったわけじゃない。
君に会いたかっただけ。
だから私は今日も、少し遠い帰り道を選ぶ。
偶然を装うための遠回り。
今日も君がいる道を。
私は迷わず選んだ。
羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し

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コメント
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読み終えました。水曜さん、この「遠回り」の話、とても良かったです。短歌のたった一行からこれだけ瑞々しい距離感と心の動きを紡ぎ出せるのは、本当に素敵なことだと思います。「嘘をつかなかった」という選択に、主人公のまっすぐな気持ちが表れていて、読んでいるこちらまで温かい気持ちになりました。