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第十七話:すれ違いの夜
最近、陽翔はずっと勉強していた。
学校でも、帰ってきてからも、机に向かって何時間も。
「……真白先輩と、同じ未来に行くために」
そう決めた日から、必死だった。
だけど――
「おーい、飯できたぞー」
声をかけても返事がない。
キッチンから覗いた先、リビングの机にはノートと参考書、そして寝落ちした陽翔の姿。
「……無理すんなって、言ったのに」
真白はため息をついて、そっとブランケットをかけた。
⸻
──週末、昼下がりの買い物帰り
コンビニの袋を片手に並んで歩いていたとき、陽翔がふとつぶやいた。
「最近、全然ふたりで話してない気がする」
「は?毎日一緒に住んでんのに?」
「ううん、そうじゃなくて。
“好き”って言い合う時間とか、手を繋ぐとか、
……なんか、前より減った」
真白は眉をしかめて足を止めた。
「お前が勉強ばっかしてるからじゃねぇか」
「でもそれって、先輩のためで──」
「俺は、“頑張る陽翔”が好きなんじゃなくて、
“陽翔”そのものが好きなんだよ。無理すんなって言ったのに」
「……そっちこそ、何も言ってくれなかったじゃん」
沈黙。
通りすぎる車の音だけが、ふたりの間に響いた。
「…すれ違ってたんだな、俺ら」
「なあ、陽翔」
真白は少しだけ優しい声に戻して言った。
「努力すんのも、未来のこと考えんのも、
全部大事だけど……“今”を捨てるなよ」
「今?」
「お前と笑い合う時間。
一緒に食って、一緒に寝て、バカみたいにふざけ合って、
“今の俺ら”を、もっと大切にしようぜ」
陽翔の目に、じわっと涙が浮かんだ。
「……やば。泣くつもりなかったのに」
「泣いていいよ。俺が拭いてやる」
真白が指先で涙をそっと拭うと、陽翔はその手を掴んで離さなかった。
「ねえ、先輩」
「ん?」
「手、繋ご」
「ずっと、離さねぇよ」
そう言って真白は、陽翔の手を強く握った。
ふたりの指が、きゅっと絡まった。