◻︎お母さんの仕事は魔女?!
オープン初日は、ランチに近所の人が3人と、予約してあった子ども食堂の子どもが4人、その親御さんの分4人だった。
「未希ちゃん、お疲れ様!いてくれて助かったよ。俺一人でやれるかな?って思ってたけど、キツかった」
「お疲れ様、私ももうちょっと簡単かなと思ってたけど、意外に大変だったね」
冷蔵庫からビールを出し、プシュッと二つのグラスにつぐ。
ひまわり食堂の初日を終えて、二人での乾杯だ。
「でもさ、小林さんや、宮崎さん、里中さんも喜んでくれたみたいでよかった。一人暮らしだとおしゃべり相手もいないもんね」
ランチに来てくれた年配の女性は、3人とも年齢は近いのに今まで特に話したこともなかったようだ。
そのせいか、ここでのランチをとりながらのおしゃべりはとても楽しかったと、里中さんから、わざわざお礼の電話があった。
「子どもたちも、好き嫌いなく食べてくれてよかったね」
「うん、みんな特にアレルギーもないと予約の時に確認していたから、作りやすくてよかったよ」
「邦夫さんにもらった野菜は、明日のメニューに入るの?」
「うん、ナス嫌いな子どもも多いらしいけど、子どもも美味しいって言うナス料理を考えてみるよ」
ぴろろろろろろろ🎶
私のスマホが鳴った。
「はい、綾菜?どうしたの?」
『あ、お母さん、翔太がそっちにお邪魔してない?』
「翔太?ううん、来てないよ。今日は友達と約束があるって言ってたから、友達のところじゃない?」
『えー、友達って、誰のとこだろ?』
「ちょっと待って、えっとね…」
食堂の壁に大きなカレンダーがかけてあって、そこにはそれぞれが予定を書き込むようにしてある。
翔太の欄を見る。
「とも君と遊ぶって書いてあるよ」
『とも君?わかった、ありがとう。その子の家行ってみるけど、もしもそっちに翔太が行ったら、引き止めといてね」
「了解!」
綾菜は、今朝うちにきたあと、午後から結婚式の介添え人の仕事と、どこかの大学の学長のお別れの会があると言っていた。
その仕事から帰ってきたら、翔太がアパートにいなかったということらしい。
学校が終わるとよくうちに遊びに来てたのに、今日に限って来なかった。
友達付き合いも大事だもんね、くらいにしか思わなかったけど。
「翔太、どうしたって?」
翔太にとっては、おじいちゃんになる進君。
じいじと呼ばれて可愛がっている。
「なんかね、いつもなら帰ってる時間にアパートにいないんだって。で、翔太の予定を見たら、とも君とあそぶって書いてあるから、きっとそこだよって綾菜に言ったけど」
「時間を忘れて遊んでるのか?翔太は。もうこんな時間だぞ」
そう言われて時計を見たら、7時をまわっていた。
外はまだ薄明るいけど、小学2年生が遊ぶ時間は過ぎてる。
それから1時間ほど過ぎたころ、玄関から翔太が入ってきた。
「じぃじ、ただいま」
「お?翔太、おかあちゃんは?」
パタパタとスリッパの音がして綾菜もやってきた。
「ごめんね!ちゃんと、とも君の家にいたわ」
「それはよかったけど、遅くない?」
時計は8時を少し過ぎていた。
「翔太は、帰るって言ったらしいんだけどね、とも君が…家の人が誰も帰って来ないから誰かが帰ってくるまで一緒にいて…って言ったらしいの。それで翔太はとも君の家にいたんだけど。私が行ってからもなかなか帰って来なくて、ついさっきお母さんが帰ってきて、やっと帰れたとこ」
「それにしても、こんな時間になるまでなんて、ちょっとそこのお母さんも考えてほしいね」
「うん、男の子といってもまだ8才だと夜は心細いよね。翔太はとも君に頼まれたから帰れなかったみたいだけど、またこんなことになると心配だから、子ども用のスマホ、考えようかな」
ちょっと麦茶もらうねと、冷蔵庫から出している。
「スマホはいいけど、その、とも君のお母さんは、何か言ってた?」
「えーっとね…あらぁ、ごめんなさいね、ちょっとお仕事が長引いてしまって。いつもは1人で待ってるんですけど…だって」
「お仕事はなに?」
そこまで話した時に、タロウを撫でていた翔太が振り向いた。
「じいじ、お腹すいた!」
「ん?晩ご飯はまだか、今日のメニューでよければ1人分残ってるぞ、食べるか?」
「ありがとう、助かる!私もお茶漬けかなんかちょうだい!」
テーブルにお茶漬けと、鶏の時雨煮や、煮物、ゼリーが並べられた。
「いただきまーす」
「こぼさないでねー、それでさっきの続きなんだけど、とも君のお母さんのお仕事って?」
「あのね、魔女なんだって」
翔太が答える。
「え?魔女?」
「うん、写真とかいっぱい撮るお仕事だって」
翔太の説明ではわからない。
「どういうこと?」
「あー、美味しかった。あのね、あれよ、美魔女ってやつ?年齢よりも若く見える人のコンテストで、何位だったかな?3位かな?それでそのあと美魔女の読者モデルになったみたいよ」
「あー、美魔女の魔女ね」
「うん、そのお仕事で遅くなったんだって、何かの雑誌のモデルとか言ってたね」
片付けは進君がやってくれる。
「でさ、その人、ホントに美人なの?見てみたいわ」
私は興味津々で綾菜に聞く。
「うーん…美人だよ、よくできた美人?って言うと失礼かもしれないけど。美人には間違いない!」
「なんかよくわからないけど。いつか会ってみたいね、ね?進君」
「ん?美魔女?俺は興味ないけどね。それよりあんまり遅くならないようにな、翔太!」
「うん、今度からちゃんとおかあちゃんに言っていくから。ゼリー、美味しい!」
翔太の友達、木崎智之8才、そのお母さん、木崎香織41才。
意外と早く会えることになる。
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