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◻︎悪魔の子?
私(美希)の仕事は、日曜日と月曜日が基本のお休み。
今はアルバイトも辞めたから、空いてる時間はひまわり食堂のお手伝いをする。
進君からは無理しなくてもいいよと言われるけれど、近所の人との会話も楽しいし、お腹を空かせた子どもたちが美味しそうに食べる姿を見るのもうれしい。
この家のローンは払い終わったらしいけど、私はずっと家賃を入れている。
その方が進にも気兼ねなく暮らせるからだ。
ひまわり食堂が開店してから3週間が過ぎた頃、進君に聞いてみた。
「ひまわり食堂の経営状態はどうなの?」
「ギリギリ赤字にはなってないよ。未希ちゃんからの家賃という名の支援もあるし」
「そうなんだ、じゃあ、赤字になりそうな時はちゃんと言ってね、取り返しがつかなくなる前に」
「わかってる、もう失敗はしたくないからね」
進君は、私との離婚原因の一番は、金銭問題だったことをおぼえているらしい。
今日は月曜日。
11時半になったので、[ひまわり食堂オープン!]と書いた小さな黒板を入り口に出した。
今ではほとんどのお客さんが、リビングに設けた入り口からやってくる。
「こんにちは、暑いですね」
「今日も来ちゃいました」
そう言って現れたのは、常連の宮崎さんと里中さんだった。
「どうぞ、入って!今日はアジフライと筑前煮ですよ」
子どもには敬遠されそうなメニューでも、体にいいものはしっかり提供する。
それに、ここに来る子どもたちは、どの子も美味しそうに食べてくれるから、作りがいがあると進君は言う。
「あ、そうだ、これ、うちでとれたものだけど、使っていただけないかしら?」
そう言って宮崎さんが差し出したスーパーの袋にはたくさんのトマトときゅうりが入っていた。
「いいんですか?」
「どうぞどうぞ!私、一人暮らしで時間だけはあるから少しだけ畑をやってるんだけどね、収穫時期になると1人では食べ切れなくて腐らせてしまうこともあるの、だから使ってもらうと野菜もよろこぶから」
「本当に助かります、ありがとうございます」
「あ、手を洗ってくるわね」
「どうぞ!」
ひまわり食堂では、おしぼりはない。
その代わり、勝手に洗面所で手を洗ってもらうことになっている。
「ねぇ、未希さん、私は野菜はないけどお花を少しばかり植えてるのよ。今度持ってきてもいい?」
「え?里中さんまで?うわ、お花なんてここに飾ったら素敵なレストランになりますね」
「じゃあ、次回、持ってくるわね」
「花瓶を用意しとかないと、進君!」
「うちで余ってるものをお持ちしますよ」
「何から何まで…」
「こんなに素敵な場所を作っていただいたんですから、少しだけでもお礼をさせてくださいね」
昔は苦手だったご近所のお付き合いが、今はなんだか心地いいと思える。
「さぁ、どうぞ!揚げたてですよ」
芳ばしいアジフライが運ばれてきた。
デザートのフルーツヨーグルトを食べ終わる頃、そういえば…と宮崎さんが話し出した。
「ここのお孫さん、翔太ちゃんでしたよね?」
「はい、2年生になりました」
「多分なんだけど、翔太ちゃんと同じ歳くらいの男の子たちがね、昨日の夕方うちの前を歩いてたの。その中の1人が、みんなに悪魔の子って言われてからかわれてたのよ」
「悪魔の子?」
「そうなの。5人グループだったんだけど、4人がその子を、なんていうの?体操服入れとか水着入れを振り回してぶつけてたのよ。そのうちよろめいて転んじゃってね…やめなさい!危ないでしょ…って止めたんだけど」
「それで?」
まるで翔太の話を聞いているようで、前のめりになる。
「転んで汚れたから泥を払ってあげて、名前を聞いたんだけどね。何も言わないのよ、なのに周りの子たちは、悪魔の子、悪魔の子ってはやし立てて。どうしてそんな風に言うのっ!て聞いたらね…そいつのお母さんは魔女だし、そいつの髪の毛はそんなんだし…って。よく見たら髪の毛の裾が金髪に赤とか青の色まで入ってたの」
「小学2年生で、髪色がそんなに特徴あると、指摘されちゃうね。少しでもみんなと違うとすぐそんなふうに言ってしまうから、子どもって…」
宮崎さんと里中さんの話を聞きながら、私は思い出していた、お母さんが魔女?そんな話を聞いた気がする。
「あ、ねぇ、あの子じゃないかな?」
進君に話しかける。
「俺もそう思った、とも君のことだよね?きっと」
「うん」
ここがオープンした日に、遊びに行った翔太の帰りが遅くなって、綾菜が迎えに行った…その時のとも君のことだろう。
お母さんが魔女ー美魔女ってことだろうと見当をつけた。
「さてと、私たちはそろそろ帰りますね」
「また、お越しくださいね、ありがとうございました」
ランチタイムが終わり、子ども食堂の準備を始める。
「今日は6人の予約だったね、だから12人分か。翔太と綾菜の分も入れると14人分だ」
時計を見ると午後4時。
早い子はあと1時間もするとやってくる。
お母さんのための空のお弁当箱を持って。
玄関のチャイムの音がした。
「じいじ、ただいま」
「おかえり、今日は早かったな。手を洗っておいで」
「うん、あのさー」
「ん?どうした?」
「ひまわりのご飯って、お父さんとお母さんがいる子は食べれないの?」
「そうだね、特別な理由がないことにはね。お母さんだけしかいないとか、お父さんだけしかいないという家の子のためにやってるからね」
何か考えている様子の翔太。
「それがどうしたの?」
と声をかける。
「僕のご飯、あるよね?それを半分こするならいい?」
「え?誰と?」
「とも君と」
「とも君?」
さっきの宮崎さんの話を思い出した。
「もうね、連れてきちゃった、入ってもいい?」
「あ、うん、いいよ」
私は進君と目で合図する、直接とも君から話を聞いてみようと。