テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
次の日の朝。
教室はいつものようににぎやかだった。
笑い声や机の音が響く。
でも、いるまは静かに席に座っていた。
窓の外を見ている。
昨日のことが頭から離れない。
屋上。
らんの顔。
怒鳴り声。
『誰がやったんだよ!!』
その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
いるまは目を閉じた。
(……最悪だ。)
知られたくなかった。
絶対に。
誰にも。
そのとき。
「おはよー!」
教室のドアが開いた。
らんだった。
いつも通り明るい声。
クラスメイトと軽く話しながら入ってくる。
でも。
いるまは見なかった。
視線を窓の外に向けたまま。
らんは少し周りと話してから、こちらへ来る。
そして机の前で止まった。
「……いるま。」
声はいつもより少し静かだった。
でも、いるまは顔を上げない。
「おはよ。」
らんが言う。
数秒の沈黙。
「……」
返事はなかった。
らんは少し眉をひそめる。
「いるま?」
もう一度呼ぶ。
でも、いるまはノートを開いただけだった。
まるで聞こえていないみたいに。
その態度で、らんは気づく。
(……避けてる。)
昨日のこと。
きっとそれが原因だ。
らんは何か言おうとした。
でも。
「席につけー。」
先生が入ってきた。
朝のホームルームが始まる。
らんは仕方なく自分の席に戻った。
でも授業中も、何度かいるまを見る。
けれど。
いるまは一度もこちらを見なかった。
昼休み。
チャイムが鳴る。
いつもなら——
屋上へ行く時間。
でも。
いるまは席を立たなかった。
机に座ったまま。
らんは近づく。
「……屋上。」
小さく言った。
「行かないのか?」
いるまはペンを動かしながら答える。
「……行かない。」
短い言葉。
それだけ。
「……」
らんは少し黙る。
そして言った。
「昨日のこと——」
「やめろ。」
すぐに遮られた。
いるまは顔を上げない。
でも声は低かった。
「その話するなら……」
少し止まる。
そして小さく言った。
「もう話さない。」
その言葉に。
らんの胸がぎゅっと痛くなる。
「いるま……」
でも。
いるまは立ち上がった。
「どけ。」
短く言う。
らんの横を通り過ぎた。
教室を出ていく。
らんは動けなかった。
(なんで……)
心配なのに。
助けたいのに。
何もできない。
その日の帰り。
いるまは一人で歩いていた。
空はもう暗くなり始めている。
家の前に着く。
足が少し止まった。
玄関のドアを見る。
(……帰りたくねぇ。)
小さく思う。
でも帰らないわけにはいかない。
ドアを開ける。
ガチャ。
家の中は静かだった。
でも。
奥の部屋から声が聞こえる。
父親の声だった。
「……遅い。」
低い声。
いるまの肩が少し揺れる。
「学校。」
短く答える。
父親は近づいてきた。
鋭い目。
「成績は。」
突然の質問。
いるまは少し黙る。
「……普通。」
その瞬間。
空気が変わった。
父親の表情が険しくなる。
「普通?」
低い声。
部屋の空気が重くなる。
いるまは目をそらした。
(……またか。)
心の中でつぶやく。
その夜。
いるまはまた眠れなかった。
天井を見つめながら思う。
らんの顔が浮かぶ。
怒っていた顔。
心配していた顔。
でも。
いるまは小さくつぶやいた。
「……関係ねぇだろ。」
誰にも聞こえない声。
そのまま、長い夜が続いていった。
コメント
1件
続き楽しみです