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僕の両手の上に、大きな節のしっかりとした天馬くんの手が重なった。
「……っ!? て、天馬くん?」
「シュートってさ、腕だけじゃなくて、ここを使う感じ」
背中越しに、彼の低い声が頭上から降ってくる。
近い。近すぎる。
背中に伝わる彼の鼓動が、自分のものと混ざり合って分からなくなる。
天馬くん特有の、シトラスの香りがふわっと僕を包み込んで、思考が完全にショートした。
「……っ」
「力入りすぎ。もっと軽く、ふわりと浮かせるイメージで」
天馬くんの指が、ボールを支える僕の手を優しく丁寧に導いた。
そのまま、彼の力に身を任せるようにして、一緒にシュートを放つ。
ボールは今まで見たこともないような綺麗な弧を描いて───
ぽすっ。
吸い込まれるように、ネットを揺らした。
「お、入ったじゃん!」
「……っ」
胸の奥が、どくどくと警鐘を鳴らす。
シュートが入ったことへの喜びよりも
天馬くんの体温があまりに近すぎたことの方が、僕にとっては重大な問題だった。
「顔真っ赤じゃん」
「〜〜っ」
「熱あんの?」
「ち、違……っ」
僕の顔を覗き込みながら、天馬くんは愉快そうにケラケラと笑っていた。
◆◇◆◇
授業が終わり、道具の片付けをしていた時のことだ。
「水瀬、そっちのボールも集めて───」
天馬くんの声に振り向こうとした、まさにその瞬間だった。
視界の端で、遠くから誰かが全力で投げ損ねたバスケットボールが
猛スピードで僕の顔面に向かってくるのが見えた。
「あ───」
避ける時間は、一秒も残されていなかった。
僕は反射的に強く目を瞑り、訪れるはずの激痛に身を構えた。
(う、うそ……っ!)
けれど、どれだけ待っても衝撃は来なかった。
代わりに聞こえたのは、パスンッ、という力強い、乾いた音だけだった。
「……え?」
恐る恐る目を開けると、僕の鼻先のわずか数センチのところで
見慣れた、大きな右手がボールをがっしりと鷲掴みにしていた。
片手だった。
それも、横から割り込んで文字通り「叩き落とす」ような神業に近い速さ。
「あ、ぶねー……。水瀬、怪我してない?」
天馬くんは眉をひそめて、本当に心臓に悪いほど心配そうな顔で僕を見つめていた。
さっきまで僕の手を包み
優しく導いてくれていたあの手が、今は僕を守るための盾になっている。
「…だ、大丈夫!天馬くん、今の……」
呆然とする僕をよそに、周囲からは
「嘘でしょ、今の!?」
「反射神経どうなってんの、カッコよすぎ……!」
と女子たちの黄色い歓声が嵐のように上がっていた。
当の本人は、そんな騒ぎなんて最初から存在しないかのように全く気にしていない様子で。
「ははっ、危なかったな」
そう言って、彼は僕の頭をポンと、まるで子供をあやすように優しく叩いた。
天馬くんはいつもそうだ。
僕が一人で震えているとき、一番欲しい言葉と
自分では絶対に届かないはずの助けを、当たり前みたいな顔をして差し出してくれる。
彼から借りているこのジャージが、また少しだけ熱を持った気がした。
#シリアス