コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第1章 夜更けの配信部屋
深夜2時。
モニターの光が、狭い部屋の中をぼんやり照らしていた。
銀髪の男――葛葉は、配信を終えたばかりだった。
長時間のゲームプレイにも関わらず、その表情には疲れよりも充足感がにじんでいる。
「……今日も、楽しかったな」
椅子にもたれながら呟いた声に返事はない。
けれど、ドアの向こうから微かな足音がした。
ノックの音の後、赤い髪の青年――ローレン・イロアスが顔をのぞかせる。
「おつかれ、葛葉。
また12時間配信してたのか?」
「んー、まぁな。気づいたら朝になってたわ」
葛葉は軽く笑い、机に転がっていたプリンのカップを指でくるりと回す。
「ローレンこそ、こんな時間まで起きてんの?」
「お前の配信、ちょっと覗いてた。
声、枯れてたぞ。もう少し休めって言っただろ」
その言い方は、まるで誰かを心配するようで。
葛葉は少しだけ目を細めた。
「なに、保護者かよ。……ローレン、マジで真面目だな」
「誰かがそうでもしないと、お前は限界まで突っ走るだろ」
ローレンはそう言って、無造作に葛葉の髪をくしゃりとかき上げた。
指先が一瞬、頬に触れる。
その温度に、葛葉の笑みがわずかに崩れた。
「……んだよ、そういうの、ずるくね?」
「なにが」
「そうやってさ、当たり前みたいに触んなよ。……ドキッとすんだろ」
軽口のように言いながらも、声の奥はどこかかすれていた。
ローレンは、目をそらすことも、笑うこともせずに葛葉を見つめる。
「俺だって、ドキッとしてる」
その一言が落ちると、空気が一瞬止まった。
モニターの光がふたりの顔を交互に照らす。
無言のまま、距離がほんの少しだけ近づいた。
「……ローレン」
「ん」
「もし俺が、ゲームも配信も全部捨てて、
“お前だけ”見てたら、どう思う?」
唐突な問いに、ローレンは少し目を瞬いた。
けれど、答えはすぐに返ってくる。
「……そんなの、悪くないと思うよ」
その返事に、葛葉は静かに笑った。
長い夜の空気の中、二人の呼吸だけが響いていた。