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第2章 触れた指の温度
モニターがスリープに切り替わり、部屋の明かりがほんの少し暗くなる。
機械のファンの音だけが静かに響く中で、ローレンは葛葉のすぐ隣に腰を下ろした。
「……お前、ほんとに無理してないか?」
「ん、してねぇよ。俺、好きでやってるだけだし」
軽く笑う葛葉の声はいつもの調子だけれど、
ローレンには分かっていた。
その笑いの奥に、ほんの少しだけ「疲れ」と「孤独」が混じっていることを。
「そういう顔、配信じゃ見せないくせに」
「そりゃあ、見せねぇよ。かっこ悪いだろ」
「俺の前でくらい、かっこ悪くてもいいのに」
その一言に、葛葉はふっと息を止めた。
ローレンの手が、そっと彼の指に触れる。
その手は温かく、指先が少し震えていた。
「ローレン……お前、ずるいな」
「なにが」
「そんな真面目な顔で言うなよ。……期待、すんじゃん」
苦笑まじりにそう呟くと、葛葉は視線を落とし、
絡められた指をそっと握り返した。
触れた瞬間、ローレンの心臓が跳ねたのが、空気で伝わるほどだった。
「なぁ、葛葉」
「ん?」
「俺、けっこう前から……お前のこと、気になってた」
「はは、知ってたよ」
葛葉は笑いながらも、声が少し掠れていた。
「お前、わかりやすいんだよな。ゲーム中、俺のこと見すぎ」
「バレてたのか……」
「当たり前。俺、モニター越しでも、そういうの気づくタイプだから」
そう言って、彼はローレンの手を引いた。
少しだけ距離が近づき、ローレンの赤髪が銀色の光に照らされる。
ふたりの影が、壁に重なった。
「……今なら、かっこ悪い顔してもいい?」
「うん」
その答えを聞いた瞬間、
葛葉はためらいもなくローレンの肩に額を預けた。
静かな息が触れる。
ローレンはそのまま、ゆっくりと彼の背に手を回した。
「……お前、あったかいな」
「お前もだよ。ずっと、冷たいと思ってたけど」
「それはプリン食べすぎだからだって」
ふたりの小さな笑い声が、暗い部屋に溶けていく。
その夜、言葉はそれ以上いらなかった。
指先の温度と呼吸の重なりが、なによりも確かな答えだった。