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「じゃあさ、今度は俺の番。星蘭だけ好きな奴がいるなんて不公平だし」
駄菓子屋へ向かう夕暮れの坂道。蹴翔はポケットに両手を突っ込み、わざとらしく前を歩きながら言った。星蘭は
「はいはい、どうせまた『アメリカにいるハリウッド女優』とか言うんでしょ」
と、呆れ顔でコーラの缶を口にくわえた。しかし、蹴翔はピタッと足を止めた。振り返った彼の顔から、いつもの意地の悪いニヤケ顔が消えている。彼は夕日に目を細めながら、ぽつりと呟いた。
「……嘘じゃなくて、ガチな奴。名前は全部で、7文字」
星蘭は心臓が一瞬、変な跳ね方をした。
(7文字……?)
「で、名字の最初の一文字は、ほ から始まる」
「ほ・し・ら・の・せ・ら(星蘭)」。文字数は全部で7文字。名字の最初の一文字は「ほ」。蹴翔は星蘭の目をまっすぐ見つめていた。曲がったことが大好きな彼が、今この瞬間だけは、定規で引いたようにまっすぐな視線を投げかけている。しんと静まり返る通学路。星蘭は頭の中で必死に文字数を数えた。
(7文字……『ほ』から始まる女子……)
やがて、星蘭はポンと手を叩きました。
「わかった! 隣のクラスの、堀 結衣(ほり ゆい)ちゃんだ!」
「……は?」
蹴翔の顔が、一瞬で引きつった。
「ほら、文字数数えてみてよ。『ほ・り・ゆ・い』……あ、4文字か。じゃあ、3組の星野 凛(ほしの りん)ちゃん! 『ほ・し・の・り・ん』……5文字。うーん、あと二文字足りないか。じゃあ誰? 塾の友達?」
自分の名前がピッタリ当てはまっているというのに、星蘭は全く別の女子の名前を大真面目に並べ立てている。人の嘘を見抜くのは得意なクセに、自分に向けられた本音には、驚くほど鈍感だった。しばらく一人で「ほ」のつく女子の名前をブツブツ呟いていた星蘭でだったが、やがて、フッといつものいじわるな小悪麻の笑みに戻って、蹴翔の腕をパシッと叩いた。
「あー、はいはい! 降参、降参! また私をいじろうとしたでしょ!」
「……え?」
「蹴翔いま、めちゃくちゃ真面目な顔して『ほから始まる7文字の女子』なんて、それっぽい条件をその場でデッチ上げたでしょ。さっき私が言った『おから始まる八文字』の仕返しをして、私を焦らせようとしたんだ! 引っかからないんだからね!」
星蘭は「危ない、騙されるところだった」と言わんばかりに、ドヤ顔で腰に手を当てた。
「蹴翔がそんな真面目に好きな人の話なんてするわけないもん。相変わらず演技派すぎて、ちょっと騙されそうになっちゃったじゃん!」
蹴翔は、あきれるのを通り越して、ガクッと肩を落とした。せっかく100%の本音を勇気を出して言ったのに、日頃の行いのせいで「高度なしっぺ返し」だと勝手に深読みされ、勝手に納得されている。
「あはは……。うん、大正解。やっぱり星蘭には敵わねえわ」
蹴翔はすぐにいつもの『大人の余裕を気取るキザな役』の笑顔を貼り付けた。
「でしょ?蹴翔の嘘のパターンなんて、私には全部お見通しなんだから」
自慢げに前を歩き出す星蘭の背中を見つめながら、蹴翔は小さくため息をついた。
(俺の名前は「おおはししゅうと」で、8文字。……アイツ、さっき何て言ってたっけ。……お、から始まる、八文字……?)
「ほら、早く行こうよ蹴翔! お兄ちゃんがモタモタしてたら、駄菓子屋のババアに怪しまれちゃうでしょ!」
「……おう、待てよ、妹」
蹴翔は頭に浮かびかけた『ある答え』を振り払うように、急いで星蘭の後を追いかけた。お互いに100%の本音をぶつけ合ったのに、どちらも「最高の嘘」として受け流してしまった、最高に不器用な二人だった。
コメント
1件
あー、もう、これめっちゃもどかしいやつやん!😭 蹴翔がガチで告白したのに、星蘭が「演技だ」ってスルーしちゃうの、読んでてこっちが叫びたくなったわ。しかも最後の「おから始まる八文字」で、星蘭も実は同じこと言ってたって気づいてないの、最高に不器用で愛おしい……。このすれ違い、次どうなるん? 続きが気になりすぎる🔥