「駄目だ! 『何の為に生まれたのか判らなかった』なんて、そんなのを最後の言葉にして人は死んじゃいけないんだ!」
これはとある舞台のワンシーン。ここで、“中島敦”は世界すべての自殺志願者の心を震わすようなセリフを命をかけて言葉にする。
「……優しいな、君は。だがいいんだ。凡人なりにやれるだけはやった」
中島敦がひしと必死になって掴んだ男シグマの手はするりと落ちていく。
濃くモヤついた雲の下を圧死しそうなほどの勢いで、下っていく……
「はーい、カットー!」
野太くひどく興奮した男の声が真っ青な空の中キインと響く。
敦とシグマはゆっくりとクレーンから降ろされていく。
「お疲れ様です、中島さん!」
カメラの後ろからやってくるのは後輩の太宰治。敦はスタッフのなされるままに、ぶらりんと徐に太宰に向かって手を振る。
「お疲れぇ。いやあ、いつか落ちるんじゃないかってヒヤヒヤしたよ〜」
「そんな柄にもないことを言わないでくださいよ! 中島さんが死んじゃったら、僕は後を追うしか道はないんですから!」
「目がまじだねえ」
白い、いわば俗にいう囚人服を身に纏った太宰は寝転がっている敦の目を覗き込む。そんな太宰の頬を敦はペチペチと叩く。
「え、あれ?! し、シグマさん? シグマさん大丈夫ですか!」
隣から聞こえるのは大倉燁子の声。敦と太宰はその声の方を振り向くと、シグマがぶくぶくと口から泡を吹いていた。
「うわっ、こいつ僕の敦さんと共演しておきながら泡吐きやがりましたよ!」
「シグマくんは高所恐怖症だからねえ。仕方ないよう、太宰くん」
泡を吹くシグマに向けて太宰は中指を立てる。そんな太宰にオロオロする燁子とそんな二人を宥めようと起き上がる敦。若干だが、カオスであった。だがそれも束の間。泡吹きシグマはスタッフの手によって控え室へ運ばれていった。
「いやあ、良かった良かったよ中島くん。今日も絶好調だね!」
監督が大きな口で笑いながら、敦の肩をバシバシ叩く。
「そうですかあ? なら良かったです」
「やっぱり僕の敦さんはどんな役をやらせても完璧……」
「君のになった覚えは無いよ」
「君たちは仲が良いなあ! やはり同じ劇団だと親しさが違ったりするのかね?」
監督の言葉に、裏からそれは違うと大声で監督の背中をドロップキックするやんちゃな人物が顔を出す。
「あだへっ!」
「俺を忘れるとは良い度胸だなあ、このやろう。俺とジマは違う劇団だが、昨日お泊まり会を開くくらいには仲が良いんだぜ!」
芥川龍之介。きっと、いや必ずこれを見ている読者は皆思うことだろう。「あれ? 作中とキャラ違うねえ?」と。そう。彼のキャラと作中のキャラは真逆である。敦は芥川を見るたびに思うことがある。こやつは絶対中原中也の方が適任だった、と……(あと、絶対あだ名の付け方に悪い方でセンスを感じる。)
「違うでしょ〜? ただ昔からの幼馴染だから仲が良いだけでしょ〜? でも、龍の後輩の中也くんだって、太宰くんと仲良いので、劇団は関係ないと思いますよ〜」
「はあ?! 僕と中原が?! 嘘でしょ、敦さん!」
太宰が吠える。
「そうかあ。たしかに二人は仲良いもんねえ」
そんなこともお構いなしに敦と監督はガッハッハと笑う。
これは、そんな『文豪ストレイドッグス』の撮影裏をとある人物のために撮影した、ビデオレターなので、ある。
コメント
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こういうカオス良すぎです、好きです