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「はーい、エトワール様朝ですよ!」
「うあぁあああ! まだ寝てたいの! 布団取っていかないで!」
朝、リュシオルの掛け声と共に掛けられていた毛布を剥ぎ取られてしまい私は、慌ててベッドの上で丸まった。
昨日の疲れが取れていないのか、起き上がる気力がなく、私はそのままもう一度夢の中へ落ちようとすると、突然肩を掴まれ無理やり起こされた。
仕方なく目を開けると、そこにはニコニコとしたリュシオルがいて、彼女は手に持っていたタオルを私の顔に押し付けた。そのタオルからは甘い香りがして、何だか眠気が覚めていくような感じがした。私はそのタオルを顔から外すとリュシオルを見る
「まだ、星流祭二日目なのよ。そんなんで如何するの」
「だって、もう昨日のでお腹いっぱいなんだもん。あ、2つの意味で」
「面白くないから」
そうリュシオルはきっぱり言うと、はあと大きな溜息をこぼしていた。
ため息をつきたいのはこっちなのに。
別に、星流祭を無理してまわる必要など何処にもないわけだし、最終日にはアルベドとまわらないといけないという罰ゲーム(ではないけど、ないけど)があるし、それまで体力を温存しておきたいのだ。昨日、暗殺者に襲われたこともあって外が怖いって言うのも勿論理由の1つではあるが。
そんな私を見てたリュシオルは、じゃあ。と手を叩き再びそのニコニコとした顔を私に近づけてきた。
「な、何……」
「私と一緒にまわるのはどう? それなら、疲れないんじゃない?」
リュシオルの提案に私は目を丸くさせた。確かに、彼女と一緒ならば疲れはしないかもしれないが、それは気持ちの面だけであって体力的には疲れる。
私は少しだけ躊躇したが、彼女の顔を見ていると行きたいオーラが伝わってきて、渋々彼女の提案に乗ることにした。
私が了承すると、リュシオルは嬉しそうに笑みを浮かべ、決まりね。と指を鳴らしていた。
「私ずっといってみたかったのよね、星流祭」
「確かに面白かったけど、人混みが……」
「そんなの慣れてるわよ! 同人誌買うためにあっつい夏も、さっむい冬も並んだものよ。それから、同人誌を買うための戦争が始まって……」
「あーはいはい」
リュシオルはオタク文化について熱く語っていたが、正直興味がない私は適当に相槌を打っていた。確かに、一度行ったことはあるがあれはもう行きたくない……精々私は、大勢いるにはいるけど一応は席があるライブだったり、アニメショップならいける。それでも、妥協している方で、推しを取るか、心身の安全を取るかでいつも揺れている。まあ、大体は推しを取ってしまうのだが。
そんなことを考えながら、リュシオルに着替えさせて貰い、昨日と同じく魔法で髪色を今日は可愛らしく桃色に染めて貰った。
それから軽い朝食を取って、私は彼女に連れられて聖女殿の外へ出ると、見慣れた亜麻色の髪の少年を見つけた。
「あ、グランツ。おはよう」
「おはようございます。エトワール様」
グランツはいつもの無表情で軽く会釈をし、私の方へゆっくり近づいてきた。彼の顔には少し疲れが見え、ここ数日鍛錬とか星流祭での事とか、見回りとかで疲れているのだろうと私は察し、大丈夫?と声をかける。だが、相変わらずの感情の感じられないトーンで大丈夫ですと短く返すばかりで、疲れたなどの弱音は吐いてくれない。
グランツは私より年下だし、従順で頼りになる護衛だけど、矢っ張り隙がないというかもうちょっと私的には甘えて欲しいと思う。しかし、そんな彼の表情とは裏腹にピコンと機械音が鳴り、彼の好感度が一上昇した。
(もしかして、私に会えたことが……嬉しかったりする、のかな?)
さすがに、それは自惚れかと思いつつ、でも彼が嬉しいと思ってくれていたらいいなって思う。
そんな私の心中を読んだのか、グランツはその空虚な翡翠の瞳を私に向けて少しだけ嬉しそうに口を開く。
「エトワール様から、挨拶をして貰えて……嬉しいです」
「ひぁえええ!? え、え、あ、たいした、ことな……挨拶、しただけ、え、あ。嬉しい、それはよかった、です、ます」
まさか、グランツから言葉をかけてもらえるとは思わなかった私は動揺して、噛みまくってしまった。
それに気づいた彼は不思議そうな顔をしていたが、私が何でもないと伝えると、またいつも通りの無表情に戻った。
(ああ、やっぱり可愛い……! そういう顔ずるい! これが、母性本能くすぐられるって奴ね!)
私が心の中で悶絶していると、リュシオルがニヤリと笑い、グランツを揶揄うように言った。
リュシオルはグランツの事を気に入っているらしく、よく彼を構っているのだ。グランツはリュシオルが苦手なのか、少し困ったような表情をしているけど(表情というよりかは、雰囲気が)主である私の一番のメイドで、私達の仲も薄々感づいているようで何も言わない。
「グランツ様に微笑みかけられて、エトワール様は照れているのよ」
「……そうなのですか? エトワール様」
「ちょ、ちょっとリュシオル!?」
私は、リュシオルを見るが彼女は笑うばかりでこの状況を面白がっており、そうでしょ?見たいな顔を向けてくる。私は、グランツの前じゃなかったら一発殴っていたかも知れないと拳を握りつつ、問題のグランツの方を見た。
やはり先ほどまで光を帯びていなかった翡翠の瞳は、キラキラと宝石のように輝きを持ち始めており、好感度も彼の上で点滅している。これは、答えようによっては好感度が上がるんだろうなとぼんやり思いつつ、私はどう答えるべきかと頭を悩ませる。
「そ、そう……うん、まあ、そういうこと。だって、グランツ笑うこととか、そんなないから……珍しくて」
私は苦笑しつつ、そう言うしか出来なかった。照れてたというか、嬉しかったというか……一言では表せなかったけど。
すると、また機械音が鳴り響き、グランツの好感度が上昇する。彼の好感度は64まできており随分と上がったものだと思う。
「エトワール様が、望むのであれば笑えるように練習します」
「いや、そんな無理に笑わなくて良いからね!?」
と、私がそういうとしゅんとしてしまった。ああ、ごめん!違うから!とフォローを入れつつ、彼の頭撫でると、気持ち良さげに目を細める。
(ああ~可愛い……! もう何この子、可愛すぎか!?)
と内心萌えながら、彼を見つめる。
すると、グランツはまたもや無表情に戻っており何というか、その、はめられたというか乗せられたというか。さては、策士かと思いつつ私は、もう一度ごめんと謝った。
「……いえ、エトワール様が悪いわけではありませんので」
「うーん……でも……」
「大丈夫です。慣れていますので。それでも、エトワール様が望むなら、少しずつ笑えるようにします」
と、グランツがそう言い切るものだから私はそれ以上言えなくなってしまった。
笑顔の練習って何だと思ったが、それでもまあ可愛いので私はよしとし、グランツにこれからリュシオルと星流祭をまわることを伝えた。グランツは、私の話を真剣に聞いてくれていて、それから、分かりました。と一言云うと護衛としてついていきます。と腰に下げていた剣の柄に手を当てた。
「え、あ、うん。よろしく……」
と私が言うと彼はコクリとうなずいた。
そして、私達はリュシオルと共に聖女殿を出ると、街へと繰り出した。グランツは相変わらずの無表情だったが、店の窓や噴水やら自分の顔が映るところでは自分の口角に指を当ててぐいっと上に上げていた。その様子に何て可愛い生き物なんだと口から出そうになったがグッと堪えて、リュシオルと屋台を巡ることになった。屋台は昨日と殆ど変わらなかったが、リースと来たときとはまた違った雰囲気というか何というかで、それなりに楽しめた。
そうして、数件屋台をまわったところでふいに誰かから声をかけられた。
「あっ! 聖女さまじゃん!」