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「いたっ!? いたたたたたたたっ!」
「あ? どしたん!?」
ともあれ、この校内に本当にお化けが存在するなら、すこし深堀りして考える必要がある。
まずはありがちな、元は墓地があった場所に学校を建設したという仮説。
私が知る限り、そういった話は聞いたことが無い。
「お腹……、お腹が痛い……! これはちょっと……、あんまり無理しないほうがいいかも」
「マジか!?」
「え? 珠衣ちゃん、大丈夫です?」
ならば、先の話題から。 何らかの戦国絵巻に端を発する悲劇の可能性。
やはり、これも考え難い。 この場所が城址だった記録もなければ、過去この辺りで大きな戦があったという伝えも無い。
「じゃあ、ナデナデしてやろっか?」
「いたた……。 ん? なで……なで……?」
「おう!ほら、子供んときみたいに」
「バ……っ!!?」
もちろん、長い年月の中で、一連の記録が失伝してしまった。 そういう事も充分にあり得る。
もしくは、記録にさえ残らない悲話。
血で血を洗う乱世ともなれば、どこの土地にも大なり小なり同様の禍があったものと思う。
「な……っ!? ば……! バカじゃないの!?」
「なんだよ、めっちゃ元気じゃん!」
今件の第一印象と言うか、最初に感じた手触りを述べるなら、やはり“姫さま”という語義を無視してはいけないような気がする。
「なぁ千妃!」
「姫さま……、貴人だよな? じゃあ霊の正体は近しい従者。 侍女か……?」
「れ、れい……っ!?」
件の女子生徒の話では、声の主は女性だったと。 ひどく哀しげな、やる瀬ないものを感じたという。
「いや、でも仮に侍女だとして、最期は主と運命を共にするものなんじゃ……?」
「ひょぉ……?」
あくまで一般論だ。 その通りに運ばない、運べないのが世の常だろう。
「直前になって、命惜しさに逃げ出した……? それを悔いているのか……。じゃあ、姫さまはこの場所で?」
“姫さま”の終焉の地をこの場所と仮定するなら、侍女の霊らしきものが現れた理由も解る。
しかし、なぜ今になって?
やはり、“姫さま”という言葉に引っ張られ過ぎるのはよくないのか?
単なる渾名、ニックネームの可能性だってあるわけだし、それだけで時代背景を断定するのは早計かも知れない。
「あの……、千妃ちゃん……」
「ん……、ん? なに?」
ふと幼なじみの声を聞いて振り返ったところ、どういう訳か二名とも顔色が真っ青だった。
いったいどうしたのか。
まだ探索は始まったばかり。 音を上げるには早すぎると思うが。
「千妃ちゃん、あのね? そういうの、よくないと思うよ? ホントに……。今は」
「ん? あ、そっか。ゴメン」
ひとたび考え事を始めると、周りが見えなくなるのは私の悪癖だ。
気づかぬ間に、会話のキャッチボールを疎かにしてしまったか。
いやそれにしては妙だ。 そこは普通怒るところであって、怖がるような場面じゃない。
よく判らないが、親しい仲にも礼儀はある。
ともかく無礼を謝し、こちらはなぜか先頃よりも一段と生き生きした表情の保護者の手を借りて二名を介抱しつつ、一路目的地へ向かうことにする。