コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
部室棟の構造としては、一階に食堂が。 二階に運動部の部室があって、三階部分に文化系クラブの部室が並んでいる。
結果から言うと、ここでは何も起こらなかった。
他と同じく、廊下は気重い暗闇に埋もれるばかりで、特にこれといって不可解なものは見当たらなかった。
初手から当たりを引くとは思っていないが、やはり空振りを食うのは嫌な感じだ。
しかし、見方を変えればここからが本番と言える。
一層気を引き締めて掛からないと。
「飴ちゃん食べる?」
「ん、ありがと……。なにこれ? 動物?」
「うん、動物キャンディー。 恐竜が出たらラッキーだって」
幼なじみの差し入れを受け、俄かに肩の力が抜けた。 また悪い癖が出ていたようだ。
ふと、祖父の教えを思い返す。
“探求心か使命感か、掲げるならどちらか一方にしておきなさい”
いま必要なのはどちらか。 いや、本件に限っては、どちらの念いも必要ないように思えた。
私たちは今回、同級生の涙をきっかけに、この幽霊騒動に乗り出した。
そこに個人的な探求心を持ち出すべきじゃないし、特別に使命感を燃やすのは単なる驕りと言える。
「お、コアラか。 じゃあ行こうぜ。 校内、見てまわるんだろ? 」
「ん……。うん、そうだね」
ここは諸々の情趣を一旦忘れて、己の役割をそつなく熟すことに集中すべきだろう。
一人の女子生徒が、元の穏やかな学校生活を取り戻せるように。
「よし。じゃあ、順路の通りに」
「よっしゃ!」
「そっちの、外階段だね?」
心新たに探索を再開する私たちだったが、どうしても拭えない懸念があった。
今この時、校内のどこかにお化けが存在しているとして、それと出会す可能性は、いったい如何ほどのものだろう。
今夜、本当に私たちは相手の尻尾を掴むことができるのか?
もちろん、今夜がダメなら明日・明後日と、何度でも挑み続けるつもりではある。
「千妃ちゃん、大丈夫?」
「うん、平気。ありがと」
部室棟を訪れて、判ったことが一つ。 本件のお化けは、どうやら一処に止まるような、いわゆる地縛霊タイプではないという事だ。
学校そのものが先方にとっての“場”の可能性も考えたが、それなら目撃情報がもっと以前からあっても良さそうなものである。
そうなると、急に現れた。あるいは外から入ってきたと考えるのが妥当ではないか。
「ねぇ、ほのっち。 霊体ってさ、動こうと思えば一日にどのくらい行けるもの?」
「え……っ? あー……っと、どうかな? そのヒトによるんじゃないです?」
人間と同じく、個人差があるということか。
今この時、すでにどこか遠くへ行ってくれていれば善し。
いや、それはいけない。
「実害ってあるの?」
「実害、ですか?」
「うん、霊的な呪いで事故が起きたりとか」
「それは無いです」
きっぱりと明言する彼女の様子に、わずか面食らった。
こちらの顔色を悟ったか、すぐさま補足が加えられる。
「あ……。 や、アレですよ。 呪いとか、そんな事するとうちの母上がガチギレするし、あとが地獄っていうか。文字通り」
「そっか………。危ない橋は渡りたくないよね、やっぱり」
つまり、やろうと思えば出来ないことは無いと。
やはり、他所に押しつけて解決を図るのは下の下だ。
それが解っただけでも収穫か。 やはり、学校で片をつけるしかないのだろうか。