すうっと、大きく息を吸って吐く。
今更緊張なぞしたところで、ではあるけど
(やっぱ怖、、、)
一抹の恐怖が心の隅に鎮座する。
それでも先に進まなきゃいけんから、訓練場のドアノブに手をかけた。
次の派遣先はー
「あれ、、、?」
ドアを開けた先にいるはずの人物がいない。
おかしい、指定された時間より前に来たというのに。
どうしてー
と思った瞬間、
「っ!!!」
急に現れた?いや、降ってきたのか?
顔に蹴りを入れられかけたので、咄嗟に体勢を低くしたがどうやら正解だったらしい。
そのまま後退し顔を上げると、目の前で余裕そうに服の埃を払う
「ま、及第点やな。」
シャオロンさんがおった。
急に蹴ってきてなんなんだと思うが、面接の時もこんなんやったからまぁそういう人なんやろうと結論付ける。
それより、挨拶せな と急いで挨拶をする。
「レパロウと申します。ご指導、ご鞭撻の程をよろしくお願いします、!」
そういうとシャオロンさんは少し怪訝な顔、というか お前に教えることなんてあらへんわ とでもいうような顔をする。
僕めっちゃ嫌われてるやん。
「、、おれは、今までお前を見てきた奴らの評価は過大やとおもっとる。」
「、、はい。」
「戦闘能力は確かにある。そこらの一般兵と比べれば、一等兵と比べればまぁ目立つ程度の力」
目立つ 程度
「でも、幹部には足りん。落第ギリギリの及第点や。そんなんで幹部になってもすぐ死ぬ未来は見えとる。」
「、、はい。」
一つ一つの言葉を噛み締めながら返事をする。
「現に」
と言いもう一度こちらへ攻撃を仕掛けるシャオロンさん。
「!」
蹴りとかではなく、これは、、
ばん、と大きな音を立てて僕は押さえつけられる。
床が幸い畳だったことに感謝したい。
出なければこれ以上に脳が揺れていたはず。
それでも抵抗を、と思いシャオロンさんの腕を掴むもびくともしない。
「おれがお前を認める条件は、単純明快ただ一つ。」
「1ヶ月後、もう一度呼び出す。そこでおれを納得させる形で押し倒してみ。」
「今のお前じゃ少なくとも、この体制を打開できへん。」
圧倒的力の差なのか、わからない。
でもシャオロンさんのいうとおり、僕にはこの場面を崩せない。
おそらく面と向かって戦闘をしても、床に押し付けることなど僕にはできない。
わかる。
それは僕が先手を打とうと同じやと思う。
*
期限は1ヶ月。
その間は打倒シャオロンさんのために訓練はする。
もちろん、他の幹部様のところに研修も行きつつ、や。
とはいっても、自分に足りないところは?といざ自問しても中々でないものだ。
(シャオロンさんは、僕の何を何が足りないかを解っとる。)
その事実が、じわじわと胸に重くのしかかる。
力不足 ?
なら筋トレの量を増やすべきなのか。
それとも経験不足 ?
実践経験が足りないのは確かにそうやと思う。
いや、気持ちの問題?
でもあの場で〔足りない〕と問われたなら気持ちの問題ではないはず、、、
そこが分からん。
分からんから、余計に焦る。
(僕の何が……あかんのやろ。)
訓練場の薄暗い照明。
まだ床に残った自分の足跡。
掴んだはずなのに微動だにしなかったシャオロンさんの腕の感触。
ぜんぶが、「お前はまだ弱い」と言ってくる。
深く深呼吸をして、気持ちを落ち着けようとした時だった。
「顔、死んどるで。」
声がしたのと同時に、仰向けになっていた僕の視界にひょいとゾムさんが現れた。
「ぞ、ゾムさん!!??どうしてここに?」
「なんやうるさいぞ。シャオロンから聞いたんや。」
「シャオロンさん、、から?」
「お前がここにおるってな。せやから暇やし遊びに来たわ。」
シャオロンさんが、、、?
「な、暇やし一本付き合ってや。」
ゾムさんは冗談めかした口調とは裏腹に、
じっと僕を観察するような、鋭い視線を向けていた。
……たぶん、これは 遊び なんかじゃない。
「……お願いします。」
そう言った瞬間、ゾムさんの足が視界から消えた。
「っ!?――」
避ける間もなく、僕の肩口に軽い衝撃が入る。
軽い――
けれど、一瞬で体勢が崩れた。
「はい一発目〜。お前、体術ほんま弱いなぁ。」
「っ、まだ何も――!」
言い終わる前に、今度は膝が僕の足をすくう。
畳にぱしんと倒れ込み、息が詰まる。
「二発目。ほら立て。」
ゾムさんはあくまで飄々と、だが確実に手を抜いている。
それでも、まるで触れられただけで簡単に体が崩されたみたいな感覚。
しかも
(……これ、避けられへん……!)
立ち上がると同時にもう一度踏み込み、
腕を狙うが、ひらりと受け流される。
「おいおい、本気で来いや。
シャオロンに勝つ気あるんちゃうん?」
挑発するような声。
僕は歯を食いしばり、もう一度仕掛ける。
――が。
「ほら三発目。」
背中を軽く押されただけなのに。
体勢がぐらりと崩れる。
「お前、筋力も反射も悪くない。でもな――」
「あばっ」
ゾムさんは深いため息をつき、僕の額を指で弾いた。
「“体術の基礎” が圧倒的に足りてへん。」
「……!」
言葉が刺さる。
「殴る蹴る以前に、まぁそこはセンス自体はあるんやろうけど、重心の置き方も、踏み込みも、避け方も、全部バラバラや。」
淡々と告げる声。
「お前、細っそいけど力は強い。成長期やろ?もっと強くなるんちゃう?
でも“力頼り”の殴り方しかしてへん。」
「……。」
「そのままシャオロンとやり合ったらどうなるか。
――今みたいにひっくり返されて終わりや。」
畳に倒れ込んだまま、
僕は自分の拳を見つめる。
全部見抜かれている。
“僕に足りないもの” が。
本来は自分で気づかなくてはならないこと。
それに気づけなくて悔しい。
「レパロウ。」
呼ばれて顔を上げると、ゾムさんはしゃがみ込み、
真っ直ぐ目を覗き込んでいた。
「お前はええやつってことは聞いた。戦闘試験で力もあることは知っとる。
でもな、それを扱う“根っこ”が育っとらん。」
「根っこ……?」
「せや。
体術の基礎は“土台”や。土台ぐらついとったら、どれだけ屈強なやつであっても崩れる。」
ゾムさんは軽く拳を作ってみせた。
「シャオロンを倒すには
まず“自分の体を思い通りに動かせる”ようにならなあかん。」
胸の奥が、かすかに震える。
(……僕の課題は、体術の弱さ。)
言葉にした途端、腹の底にストンと落ちる。
「……僕に体術を教えてください。」
体を起こし、深々と腰を下げる。
するとゾムさんはにやっと笑いながら
「おう。言うと思ったわ。でもな。」
「俺より体術イける奴が1人おる。そいつに教わり」
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