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「類さん!あのね…」
「誰、この人?」
episode13
何故か俺たちの間に気まずい空気が流れる。
類さんはただ先生を睨んでいた。
「お前のお兄さんか?」
「え?うん。類兄さん。」
「どうも、細田くんの担任の佐藤景です。」
先生は浅くお辞儀をした。
「どうも、佐藤先生。いつも笑がお世話になっています。」
口調は優しいものの、そこに笑顔は無かった。
類さん、なんか怒ってる…?
「類さん…?」
「ところで…二人はこんなとこで何していたんですか?」
「え?」
「ここから二人が一緒に出てくるのを見たのですが…」
いや、そんな浮気現場を見たみたいな感じで言われても…。
「ああ、そんなやましいことはしていませんよ。ただ、笑が怪我をしていたので、ちょっとした手当てをしていただけです。」
「怪我…?」
類さんの顔が余計こわばる。
まずいかも…
「類さん、もう帰ろう?それに、類さんに渡したい物があるんだ。」
「渡したい物?ショウにゃんから?」
あ!
「え?」
先生の眉間にシワが寄る。
「…ショウにゃん…?って?」
「やっちゃった〜…。」
あれから俺がなんとか誤魔化し、(結構無理やり)家に帰ることができた。
そんなことよりも…
「まさか、類さんがしくじるとは…」
「ホントにごめん!!!あ〜ど〜しよ〜…」
「大丈夫だと思うから、そんな落ち込まなくても…。まだ、俺たちの関係がバレた訳じゃないし…。」
ショウにゃんってだけじゃ、誤解されない気がする。問題なのは先生の類さんへのイメージだ。
絶対ブラコンだと思ってる…。
「…類さんの学校に広まらない限り、大丈夫だと思うよ。プライドとか…いろいろ…。」
「僕、たまにしか学校行かないから大丈夫」
あ、そうだった…てか…
「ガチで学校行ってないの?」
「え?うん。だって、行ったらちょっと…」
類さんは疲れたような表情になる。
「…まあ、いいや…。」
類さんもいろいろあるだろうし、触れないでおこう…。
それよりも…
「類さん…あのね…!」
「それよりさ…」
類さんは俺の言葉を遮る。
「怪我したって言ってたけど…?」
「え?」
「どこ怪我したの?そのままなんでしょ?菌が入っちゃいけないから…ほら、見して?」
すぐさま腕を隠す。
「ショウにゃん、見して。」
花で隠してたけど、やっぱりバレるか…。
類さんは心配そうにこちらを眺める。
でも、待て?今、そのままって言った?だったら俺手当て受けてるし…見せたら安心するんじゃ…?
よし!
俺はそっとガーゼが付けてある腕を見せた。
「…?手当てしてある…?自分でやったの?」
「ううん。佐藤先生がしてくれたんだ。ほら、俺たちが二人で出てきたマンションあるだろ?あそこ。」
すると類さんの顔色がサーッと青くなった。
「類さん…?」
「触らせたの…?アイツに…?」
「え?」
「腕、触られた?」
「…そ、そりゃ、手当てなんだから触るだろ…。でも、それがどうしたっていうんだよ?」
すると類さんは俺の両肩を勢いよく掴む
呼吸が荒い…。
「他にどこ触られた?!何かされてない?!」
「え!?ちょ、落ち着いて…!!」
「アイツ…今度会ったら只じゃおかない。」
「は?…類さん、誤解してる!本当に手当てしてもらっただけだって…!!」
「でも相手は下心があったかもしれない!」
「そんなんねーよ!あの人に!」
「わからないじゃん!自宅に連れ込んだんだよ?!」
「それは近かったから!それに、今何ともないじゃん!」
「でも、体を触られたなら確信犯だよ!!」
「触られたのは腕だけ!手当てで触れなかったら何も出来ねーじゃん!」
「それが目的かもしれなー…」
「いい加減にして!!」
類さんの言葉を遮り、腹の底から声を出した。
類さんは悔しがってるような…寂しそうな…今にも泣き出しそうな表情をしながら、静かに俺の肩から手を離した。
結局、類さんも同じだったんだ。
何も知らないくせに、勝手にあれこれ決めて、俺の恩人を悪人にする。
俺の大嫌いな人種だ。
「…もういいよ。」
俺は類さんの顔を見ずに、そのまま玄関へと走り、外へ飛び出した。
こればかりは類さんが悪いんだ。
まだ夕陽は沈んでおらず、照らされるアスファルトの道を歩きながら、そう思った。
やっぱりそうなんだよ。あのとき、ほんの少しだけ、類さんは違うかもと思った俺がバカだったんだ。
先生はそんなんじゃない。ちゃんとクラスの皆を見ていて、俺の居場所を作ってくれて、俺を助けてくれた。あの時の先生の背中があまりにもかっこよかった。なのに…
「類さんは…何も知らないくせに…」
無意識に口ずさむと、誰かに肩を叩かれた。
そして俺は、意識を失った。