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類さんは俺を追いかけなかった。
あれ?
episode14
ん?ここどこだ?どっかで見覚えが…
「あ!笑!目が覚めたんだね!」
俺が起き上がると、尚は俺を支えた。
見覚えのある綺麗な部屋、ふかふかのベッド、コスプレ衣装が入っているクローゼット。そうか、ここ尚ん家か…。
「あれ?尚?俺…」
「もう!あんなとこ一人で何歩いてるの?!話しかけようと思ったら、急に倒れるし…」
「あ、そっか…俺、あそこで倒れたのか…」
「はあ〜…何があったか知らないけど、前、誘拐されそうになったんだから、気をつけないと…!」
なんか、安心する…。
「…ごめん。」
「あ、いや!責めるつもりはなくて…!」
「…いや、ホントに俺、何してんだろ…。一人で抜け出して、行く場所もないのに…彷徨って…。バカすぎるな。」
すると尚は俺の手に手を添えた。
「…僕で良ければ話、聞くよ?」
いや、優しすぎー…。
心配そうに見つめる尚にそっと微笑みかける。
嬉しいけど、これは俺の問題だから尚を巻き込むわけにはいかない。
「いや、いいよ。ありがとう。…よし!そろそろ帰るかな〜!」
ベッドから下り、ドアに向かおうとすると腕を引っ張られる。
「尚?」
尚の顔が前髪の影でよく見えない。
「何で頼ってくれないの…?」
「え?」
そして、真剣な表情でこちらに顔を向ける。
「!」
「僕は、笑と一緒にいて救われた。沢山、救われたよ。だから、笑のことも救いたい!沢山、一緒に居てくれた分、沢山笑わせたい!だから…頼ってよ…。」
いや、そんな真剣に言われたら断りにくい…。
でも、本当に尚とは関係ないし、巻き込むのも駄目なくらい面倒くさいことだから、出来れば話したくない。
でも…
「…わかった。ホントにどうでもいいことなんだけど…。いい?」
すると、尚の顔が明るくなった。
「うん!ありがとう!何でも言ってよ!」
「そっか…それは、笑の気持ちもわかるな…」
実名は明かさず、一応友達ってことで尚に話した。
類さんがブラコンだと思われたくないし…。
「だろ?…なんか、束縛が凄いっていうか…。まあ、確かに、何も言わずにってとこは俺も悪いけど…」
「う〜ん……。」
尚は首を傾げた。
「あー…だから言ったろ?どうでもいいことだって。」
「違うよ!…解決策を考えてるの。……これでも一応、真剣に考えてるんだけど…?」
「!…ごめん…。」
確かに、見たことないくらい真剣に考えてくれてる…。
俺、いい友達出来たな…。
「でも、謝ればいいとしか思いつかない…。」
「…だけどそいつ、俺のことを追いかけなかったんだよ。普通、嫌な気持ちになったら追いかけるはずなのに…。」
「…えっと…」
すると突然、部屋のドアが開き、尚のお姉さんが顔を覗かせた。
「尚!今ねー…!って、ごめん。来客いたのね。」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。」
そう言うと、お姉さんは目を細めた。
「…ん?あら、コスプレしてくれた人じゃない!もう、尚!教えてくれればよかったのに!」
「いいから!今、大事な話をしてるの!出てって!」
尚はお姉さんを力一杯部屋から出そうとした。
別にいいんだけど…
「えー?せっかくショウにゃんが配信してるのに…」
…え?
「今そんなのどうでもいいよ!早く出て行って!」
「アーカイブ残るから見るんだよ?!」
「はいはい!じゃあねっ!」
勢いよくドアが閉まる。
でも、今の俺にはその音は聞こえなかった。
ショウが、配信している…。ってことは類さんも見ているんじゃないか…?
あれだけのショウにゃん愛だ。配信を見逃す訳がない。
だから、俺を追いかけなかったの…?
ショウにゃんの配信があるから…。
だから…
「笑?…どうしたの?顔色悪いよ?」
「あー…平気平気!いや、お腹空いちゃって。だからもう帰るわ。明日また相談する。」
「え?…うん。でも、結構暗いよ?…」
窓の外を見ると真っ暗になっていた。
「それに、笑の両親あんまり帰って来ないんでしょ?」
「え?どこ情報?」
「え?佐藤先生が言っていたけど…。」
…なるほど、先生が前、俺の両親に電話しようとしたけど繋がらないから俺、そういうことにしたんだっけ…。
「あー…うん。そうだね…。」
「よかったら、家泊まってく?」
「え!?いいって!迷惑だし!!それに、もう夕飯作ってるだろ?!」
「大丈夫だよ!僕ん家、いつも作りすぎてご近所さんに分けてるから!逆にありがたいくらいだよ!」
だったら、類さんに連絡しないとー…って…
スマホ忘れてる!!!!
…はあ〜…だったら仕方ない…。
「俺、やっぱり帰るよ!お泊りは、計画ちゃんと立ててからにしようぜ!なんなら、明日でもいいし!」
「え!?…でも…」
「俺は大丈夫。じーちゃんがいるから。」
そう、じーちゃんが見てくれてる。
「そっか…。」
「じゃあな!本当に助かった!また学校で!」
俺は尚の部屋から出て、玄関へ向かう。
これは俺の問題。それに、まだじーちゃん家が残ってるはず。
今日はそこで寝泊まりすっかな…。
「笑!」
尚も俺に続いて出てくる。
「やっぱり、駄目だよ!もう、外暗いし!しかも、今日笑、誘拐されそうになったんだよ?!絶対駄目!」
「言ってもまだ6時だろ?補導されないから大丈夫!」
「そういう問題じゃない!」
尚はそっと俺の手を握る。
「いい?僕は、笑の身に何か起きないか心配なんだよ。もし笑に何かあったら、僕…だから、せめて車でー…!」
俺は尚の手を握り返した。
「大丈夫!また学校で!」
尚に背を向け、玄関から出た。
そして、じーちゃん家目掛けて猛スピードで走る。
確かに、今日もいろんなことあったし、怖いけど…
「大丈夫、じーちゃんがいる。」
類さんは、俺ではなく、ショウを優先した。でもそれは当たり前で、俺は所詮赤の他人。類さんの選択は間違ってはいない。
だから、俺がグズグズ言う権利はない。
久しぶりに来るじーちゃん家はあまり変わっていなくて、何もかもそのままに見えた。
じーちゃんがよく座っていた縁側。二人で大笑いしたテレビ前。じーちゃんの好みに合わせた料理を作るのは、どこのシェフでもできなかったと思う。
すべて、いい思い出。
そうだよ、類さんは俺にとって赤の他人。関係ないんだ。
ここも、思い出の場所だけど、類さんはいない。
でも、何でかな…。ちょっと会えないくらいで、寂しいって思ってしまうんだ。
何で…なんだろ…。教えてよ、じーちゃん。
家族でしょ?