テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「なんだ、これは」
「あ……それは、そのー……」
なぜ今日に限って、普通の春画じゃなかったのだろう。
いつも通りのやつなら、見られても良かったのに。
「これはなんだと聞いている」
ひいぃぃぃ、怖いよぉ。
煜峰から漂う空気が、夏の夕立のごとくガラリと変わった。
今にも雷が落ちてきそうだ。
麗霞が葉青にリクエストされて描いた絵。
それは煜峰をモデルにした男性と青年とのひとコマ。俗に言う、男同士の性愛と言うやつ。
上半身を脱がされ、後ろから青年に攻められている煜峰似の男性の口元には青年の指先。
首筋を舐められ顔を赤らめるその表情は、思いっきり淫らに。
青年の方は麗霞の妄想により生み出した人物で、こちらにモデルはいないが、武人を思わせるがっちりとした身体付きの男性にした。
「こっちの男……どう見ても私だよな?」
「そ……そうですか? 確かにちょっと殿下に似ているかもしれませんねー、なんて……ははっ。でも絵の男性には目元にホクロがありますし、別人ですよ」
「明らかに私を参考にしているよな?」
「ええーと……まあ、その……はい。あくまで参考です。そう、参考……」
葉青のバカー!
なんで実在する人物をモデルにして、なんてリクエストをしてきたのよおぉぉっ!!
ノリノリで描いた自分のことは棚に上げて、麗霞は心の中で友人を恨んだ。
「なんで……」
「は、はい」
#異世界転移
花月夜れん
2,559
設楽理沙
880
耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
「なんで私が受けなんだ?」
え? 気にするとこそこ??
予想外のコメントに麗霞は目をぱちぱちと瞬かせながらも、真面目に答えた。
「それはだって……煜峰殿下には挿れる物が付いてませんし……。攻めは無理かと」
先程まで雷を落としそうだったのに、先に雷を落とされたのは煜峰の方だった。完全に言葉を失っている。
そんなにショックを受けているけど、でもちょっと考えてみて欲しい。挿れる物がないのに、どうやって攻めるというのだろう? 受け以外の選択肢はないではないか。
いや……待てよ、と考え直す。
相手の青年のを勃たせて、挿れろと迫るとか?
それはそれで……。
「うふ……うふふふふ……」
「お、おい……なにを妄想してるんだ。気持ちが悪い」
「いえ、ちょっと。うふっ……すみません」
麗霞は煜峰の注意を絵から逸らせるように「そうだ!」と声を上げた。
なんとかこのピンチを脱したい。
「中書省の例の官女についてご報告が」
「ん? 何か動きがあったか」
いい反応。食い付いてきた。
「先程雲嵐様の所へ画材道具を届けに、雲嵐様がお使いになっている作業所へと行ってきたのです。そうしたら例の官女と雲嵐様が、お二人で部屋におりました」
「どんな様子だった?」
「どんな様子か……そうですね。お二人の距離はただ話をするだけにしては、近すぎるものでした。他に人気もなく完全に二人だけの空間、とでも言いましょうか」
ここまで言えば分かるでしょうと煜峰を見ると、まだ足りないらしい。先を促してくる。
「詳しく話せ」
「詳しくって……」
逢い引きの詳細を聞いてくるなんて、煜峰もなかなかの変態ね。
「次に私が見た時には、彼女は雲嵐様にピッタリと近寄り、えり口に手を差し込んでいるところでした」
「えり口に手を……?」
顎に手をやり、何やら考えている煜峰。これ以上聞かれたって答えられない。だって見てないんだから。
「これ以上見ているのはどうかと思い、画材道具はその場においてここへ戻ってきて、今に至るというわけです」
「うむ、賢明な判断だったな」
煜峰も、それ以上見続けるのには反対意見らしい。引き下がってくれた。
「それでは私はこれで……」
煜峰から絵を返してもらおうとさり気なく手を伸ばすも、空を掴むに終わった。
「返すわけないだろう」
煜峰の手によって、ビリビリと細かくちぎられていく春画。最後には紙吹雪のようにフワッと撒き散らされて、ハラハラと舞落ちてくる。
為す術もなくその様子をただ見ていると、急に顎を掴まれて視界が煜峰の顔で遮られた。
――――?!
唇に触れている生暖かく柔らかい感触がなんなのか、一瞬分からなかった。
だって人生で、初めての感覚だったから。
いま私、口づけされてる?
ようやくその事実に気がついた時には煜峰の唇は離れて、顎の拘束も解けていた。
「言っておくが私はノーマルだ。男を愛でる趣味も愛でられる趣味も無い。二度とそのような絵を描くな」
「は……い……」
部屋から出ていく煜峰に、腰を抜かして座り込んだ麗霞は、ただ一言返事を返すので精一杯だった。
コメント
1件
あおいです🤍 いやもう、第14話、衝撃的でした…! 春画がバレるピンチからの「なんで私が受けなんだ?」には声出して笑っちゃいましたよ。麗霞の「挿れる物が付いてませんし」、確かにその通りなんですけど(笑)。で、最後のキスですよ。ノーマルだ宣言した直後のあれ、完全にアブノーマルでは…? でも初めての口づけに腰を抜かす麗霞が愛おしくて、思わず胸がときめきました。次が待ち遠しいです!