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流石に似せすぎたか。
煜峰が怒りに任せてあんなことをしてきたのも無理はなかったと、今更ながら猛反省している。
自分だって、自分がモデルとしていかがわしい絵を描かれた嫌だしね。
今度からは頼まれても、実在する人物を参考に描くのはやめよう。うん。
お詫びのしるしに煜峰の役に立ちたいのだが、あいにく麗霞には絵を描くこと以外の才能はない。
煜峰には色仕掛けはもうやらなくていいといわれたけど、もう少し頑張ってみようかな……。
それとも煜峰が気になるという右さんの動きでも探ってみる?
こちらなら何とかなるかもしれない。
うーんと考えながら、床に散らばった春画の残骸を片付けていると、雲嵐が部屋に入ってきた。
粉々になっているとはいえ、どんな絵が描かれていたのかバレるとまずい。
ささっと塵取の中に掃き入れて、くずかごに捨てた。
「雲嵐様、お疲れ様でございます」
「扉の傍に画材を置いたのは麗霞、君だね?」
「はい。お取り込み中のようでしたので、置かせて頂きました。何か足りないものでもあったでしょうか」
いつも口元に笑みをたたえている優しい印象の雲嵐だが、今日は少し様子が違う。
何ヶ月か前に、同じような感覚を経験したことがある。
煜峰の執務室で。
まさか、また何かヘマをやらかしたのだろうか。
雲嵐は右とイチャコラしてきて機嫌がいいはずなのに、どこか険がある。
「いいや、いつも通りよく揃えられていたよ。それで君は、僕が取り込み中だったと言ったね」
「はい」
「取り込み中というのは、何を見たんだい」
「なにをってそれは……」
――そういう事!
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「右さんと逢い引きなさっていたことでしたら、絶対口外致しませんのでご安心下さい」
きっと雲嵐と右には親の決めた別の相手がいて、一緒になることは叶わない、道ならぬ恋なのかもしれない。
それなら逢い引き現場を目撃してしまった麗霞を警戒するのも頷ける。
煜峰にはもう話しちゃったけど、中書省の官女とだけしか教えていないし、ギリギリセーフよね。
「逢い引き……?」
「お二人の間にどんな障壁があるのか存じ上げませんが、応援していますから!」
一瞬ポカンとした顔をした雲嵐だったが、機嫌を直してくれたようで、直ぐにいつもの笑みを顔にうかべてくれた。
「あ……ああ。逢い引き……。そう、彼女とはそういう仲なんだよ。人には言えないからね。秘密にしておいてくれ」
「ええ、任せてください!」
「仕事の邪魔をして悪かったね」
「いいえ。雲嵐様が制作されている掛け軸も、もうすぐ完成しそうですか?」
「ああ、順調だよ。来週には終わりそうだ」
「そうですか。完成した絵を見るのが楽しみです」
「ありがとう。それでは失礼するよ」
若くして宮廷に召し上げられた才能溢れる麗しい画人・雲嵐様と、宮女右さんとの、禁断の恋――。
もうこれで、一枚描けちゃうわ。
もちろん参考にするのは設定だけ。容姿は似せない。絶対に。
どんな構図にしようかしら〜? などと構想を膨らませる麗霞の頭の中には、警戒心はまるで存在しなかった。
***
受けか攻めかなど、どうでもよかったな。
自分の執務室へ戻り机に座った煜峰は、先ほどの出来事について考えていた。
少し間を置いて冷静になってみると、麗霞にした自分の指摘があまりにも馬鹿馬鹿しかったと思い直される。
脳内が桃色の麗霞のペースに、いつも乗せられていないか?
煜峰が同性愛者かどうかは、問題ではなかった。皇族をだしにして春画を描くなど、極刑に処して然るべきなのだが、一体何をしているのやら。
それにあの様子だと麗霞は、雲嵐は官女と逢い引きしていたとでも思っているに違いない。
馬鹿な女は嫌いだが、あそこまで突き抜けているとむしろ、うらやましいくらいだ。
産まれる前から生死を脅かされ、陰謀蠢く皇宮の中で育ってきた煜峰は、気を休めるという方法を知らない。
常に気を張り身を守らなければ、すぐに策に嵌り蹴落とされる。
だから純粋に自分の好きを追求して楽しんでいる麗霞のペースに乗せられても、そんなに悪い気はしないのかもしれない。
ガス抜き代わり。
恐らく、それだ。
それに麗霞は真性の馬鹿では無い。官女の仕事はそつなくこなせる。
表と裏の顔を上手く使い分けている生き方に、感心しているだけ。
自分の不可思議な行動に納得のいく理由を見出したところで、煜峰は改めて手元にある資料に目を落とした。
画院でいつ・どんな作品を誰から依頼され、誰が制作して納品したか。その詳細が記録されている。
本人は全く分かっていないが、麗霞から提供して貰った情報のお陰で煜峰は今、重大な事実に近付いている。
納品先が東宮に纏わる場所になっている箇所をみて、煜峰は「やはり」と薄く笑んだ。
「次に納品される作品が楽しみだ」
コメント
1件
麗霞ちゃん、またもや大誤解! 雲嵐様と右さんの逢い引きを「禁断の恋」と妄想しちゃうところ、本当に彼女らしくて可愛いです。頭の中が完全に桃色に染まってるのが伝わってきて思わず笑っちゃいました。それに対して煜峰様の冷静な分析も素敵で、こんなに正反対なふたりが一緒にいる空気感が好きです。最後の「次に納品される作品が楽しみだ」という台詞、ゾクッとしました。続きが気になる!