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#婚約破棄
霞花怜
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帰りの道中、二人の間に会話はなかった。
ただ、繋がれた手から伝わってくる瑞樹の熱が、住宅街の静寂のなかでやけに生々しく主張している。瑞樹の歩幅はいつもより少しだけ速く、柊吾はその強引なリードに必死についていくのが精一杯だった。
(どうしよう……今夜、俺……本当にこの人に……)
握りしめられた手から容赦なく伝わってくる男の体温に、心臓がうるさいほどの早鐘を打つ。
怖さや羞恥心で胸が押し潰されそうなのに、不思議と嫌だという気持ちはどこにもなかった。それどころか、いつも穏やかな瑞樹が自分に対して剥き出しの欲望を覗かせていることに、喉の奥がキュッと締まるような甘い歓びを感じてしまっている自分に気づき、柊吾はさらに顔を火照らせた。
パニックと期待で頭がおかしくなりそうなまま、気づけばアパートへと到着し、カンカンと軽い音を立てて鉄製の階段を登る。
自分の部屋である302号室の前を通り過ぎようとしたとき、柊吾は我に返ったように思わず足を止めた。
「あ、あの……黒瀬さん、俺の部屋……っ」
「……」
瑞樹は問いかけには答えず、止まりかけた柊吾の手首をぐっと強い力で引き寄せた。拒否を許さないその力に煽られるまま、自分の部屋を通り過ぎ、隣の303号室のドアが開け放たれる。
そのまま強引に室内に引き入れられた瞬間、パタンと重い音を立ててドアが閉まり、カチャリと鍵が回る金属音が狭い玄関に響いた。
「……わっ、く、黒瀬さ……っ!?」
薄暗がりの中、体勢を崩した柊吾の背中が、逃げ場を塞ぐようにして固いドアへ押し付けられる。
瑞樹が眼鏡を外し、靴箱の上に無造作に置いた。眼鏡のない瑞樹の瞳は、街灯の光すら届かない室内のなかで、獲物を追い詰めた肉食獣のように鋭く、熱く光っている。
「……ごめんなさい。もう、我慢できそうにない」
逃がさないと言わんばかりに両脇のドアへ手を突かれ、柊吾は退路を完全に塞がれる。逃げ場を失って縮こまる柊吾を見下ろし、瑞樹は責め立てるように言葉を重ねた。
「ずっと、ずっとこうしたかった……。壁越しに伝わるあなたの喘ぎ声を、俺がどれだけ我慢して聞いていたか……分かりますか? しかも、俺の名前を呼ぶなんて……」
「……っ!!」
以前、壁越しに声が漏れていたあの日のことを引き合いに出され、柊吾の心臓が口から飛び出しそうになる。瑞樹の大きな手が柊吾の頬を包み込み、親指が下唇をゆっくりと、強く押し下げた。
「今夜は真理子さんもいませんし……。俺に全部ゆだねて下さい。今更嫌だなんて、言わせませんよ」
有無を言わせない、独占欲に満ちた宣告。
瑞樹の唇が柊吾の首筋に深く押し当てられ、ちゅうと吸われてちゅうと重い音を立てて吸い上げられる。
「……んんっ……!」
拒否する隙など、最初からどこにもなかった。強引に迫られているようでいて、その熱に素直に身を委ねたがっているのは、他ならぬ自分なのだから。
首筋から、滑るようにして鎖骨へとゆっくり熱い唇が落ちてくる。それと同時に、はだけた甚平の隙間から瑞樹の大きな掌が潜り込んできた。直接肌に触れる体温があまりにも熱く、身震いするような快感が全身を駆け抜ける。
「あっ……ん、は……ぁっ!」
強烈な痺れに腰の力が抜けそうになり、柊吾は焦ってすがりついた。このままでは本当に玄関の床へなだれ込んでしまうと察し、真っ赤になった顔で必死に訴えかける。
コメント
3件
もうなにが言いたいのか分かんなくなっちゃうぐらいマジで好き なんなんですか!?この最後らへん!! 最後らへんにメガネを外して甘々なセリフ!!!♡♡♡気ですか!?!?マジでニヤニヤがおさまらなかったです!!!
かんな、第67話の「蜜月の夜」読んだわ……。もうね、柊吾の緊張と期待が入り混じった心情描写がめちゃくちゃ生々しくて、こっちまでドキドキした。特に「壁越しの喘ぎ声」の伏線がここで回収されるとは思わなかったし、瑞樹の“我慢の限界”感がたまらん。眼鏡外した瞬間のギャップが好きすぎる。二人の関係がついに動いた感じがして、続きが気になって仕方ない🔥