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私は、届きもしない手紙を今日も書いてはポストに入れる。
こんなことを始めて何年が経つだろうか。
今日はめずらしく、ここでは雪が降っている。
私はかじかんだ手に息をかけた。
帰ってくるってことを信じて…。
私がこうなったのは二年前。
私の最愛の人が消えたことから始まった。
それを聞いたときは、本当に悲しくて、苦しくて、どうしようもなかった。
なのに、なんでか泣くことができなかった。
まるで感情が消えたみたいに。
その日は、雨が強かったことは憶えている。
あの子がこの部屋を出る前に言った、「霞、大好き!」という言葉が頭を駆け巡る。
数日後、あの子の友達が私の元を訪ねてきたことがあった。
私はすぐに中へと招き入れ、彼にお茶を出した。
彼はそれに小さく返事し、私が向かいに座るとすぐに言った。
「…霞さん、実は…。」
…。
…………。
彼の名前は優良。あの子の唯一の友達で、あの子の学校の生徒会会長だった。
そんな優良くんから放たれた真実は、あの子が死んだことだった。
あの子は隙あらば私の部屋のPC前に陣取って、キーボードを動かしたり、推しって言っている方の投稿を見てはしゃいでいた、小さいかわいい子だった。
…当の本人は小さくてかわいいことなんて否定しかしていなかったのだが。
でも、優良くんは冗談を言うような子ではない。
私はその場でたくさん泣いた。
あの子に会えない真実に。
優良くんも、一緒に泣いた。
夜になるまで、ともに泣いた。
私は優良くんと別れたのち、自分の部屋へと入った。
そこには、電源のついていないPCと少し散らかったデスクがあった。
それを見ていると、あの子がここにいる幻覚が見えそうで少し怖かった。
私は、PCを起動する。
ファンが回る音と少しの機械音が鳴る。
そして、私はあの子がしていたようにヘッドフォンをする。
そして、PCのパスワードを打ってログインし、あの子がよく使っていたサイトを一個一個回った。
あの子が聴いた曲も聴いたし、あの子が使ったサイトも開いた。
ファイルだって開いたし、なんだってした。
あの子が生きていた証拠を辿るように。
始めはとても暗い子だった。
全てどうでもいいような顔をして、その場に立っているだけだった。
私の事も「霞さん」とよそよそしく呼ぶし。
なのに、いつからかよく笑うようになっていた。
それに、絵だって描いていたし、私の事も次第に「霞」って呼ぶようになった。
そして、受験して学校にも通うようになったし、優良くんというお友達まで連れてきた。
一人称は少し特殊だったし、制服には一回も腕を通さなかったけど、決して嫌われるような子ではない。
それは、私が胸を張って言えるって信じてる。
そんな時、私はふっと思い出した。
今日の朝ごはんの時の話だ。
あの子がいきなり「もしも主が今日自殺とかしたら?」と聞いてきたのだ。
私は、「嫌だけど受け入れる」って答えたんだっけ。
その後、あの子は「…やっぱ主、霞めっちゃ好きだわ!」って返してくれた。
私が大好きな、あの子の笑顔と一緒に。
「本当にするとか聞いてないよ…。」
私は、再び画面の前で泣きはじめる。
どれだけ私が辛いか、あの子は知ったこっちゃないだろう。そういう子だから。
でも、今は感傷に浸っていたかった。
あの子を思っていたい。
体から水分が消えるまで、私は泣いた。
気づいたら、私は花園にいた。
地面には彼岸花が咲き乱れている。
そして、その先にはあの子がいた。
あの子は私をしっかり見据えて言った。
また、いつものように少しだけ笑って。
「…ごめんね、霞。主が、生涯かけて言えることないんだけど、生きてほしい、ってだけ伝えておく。じゃあ、土産話、いっぱい持って来いよ!?」
それだけ言うと、あの子は私に背を向けて歩き出す。
私は、あの子が行ってしまう前に、あの子に聞こえる声で言った。
「大好きだよ!ずっとずっと!大好きだから!」
あの子はそう言うと立ち止まって、こっちを向いて言った。
「…主のほうが愛情でかいわバーカ。」
そう言っていたずらっぽくあの子は笑う。
そして、もう一つ私に言った。
「もう、視えるね、眼。きれいな茶色してんじゃん。」
私はそれで眼の周りを触る。
紙の感触が同時に伝わっていることがなかったことから、私は光をもったように周りが眩しくなった。
目が覚めると、そこにはスリープモードに入ったPCと私の涙でぐちゃぐちゃになった紙があった。
私は何か変な夢をきっと見ていたのだろう。
近くの鏡で顔を見ると、そこには茶色の双眸を持った私がいた。
誰かに、この色を綺麗と言われた気がするのだが、きっと気のせいだろう。
「…さて、朝ごはん作って仕事行きますか!」
私は自室のドアを開けて、今日の歯車を回し始めた。
:あの子視点:
これで良かったと思ってる。
優良は間に合わなかったけど、霞はきっと私を記憶から消した方が人生うまくいく。
主は霞の双眸を思い出して、ふっと笑った。
「…くだらな。」
主はキャスケットのつばをくっと下げて目を隠す。
彼岸花の中、主の焦げ茶色のブーツが目立った。
…また、なんともない一日がこうして始まって終わる。
誰かの人生も同じ。
「…全く、恐いねぇ、人って。」
主は両手をポッケに突っ込み、彼岸花を蹴った。
赤い花弁がひらひら舞う。
まるで人の命の様に。
「儚いのか、汚いのか。ホント分かんな過ぎて笑えるなぁ。」
主は空を見上げた。
見上げても、落ちてくる涙は、主の心に従順だった。