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今まさに復讐を果たさんとしていたボルガは、突如現れた少女を見て邪魔された心地で苛立たしく声をかけた。
「なんだ、お嬢ちゃん。見世物じゃねぇんだ。さっさとうせ……もっっ!?」
だが全てを口にする前に、少女のブーツの爪先が顔面に突き刺さり、身なりからは想像もできない力で蹴飛ばされて無様に転がった。
「お姉さま……お姉さま……」
そんなボルガを蹴飛ばした少女、レイミは気にも留めず姉を優しく抱いて揺する。
「っー!っはーっ!はーっ!はぁ!はぁ!ごほっ!ごほっ!はーっ!」
覚醒したシャーリィは酸欠状態であったため荒々しく息を吸い、むせながらも意識を取り戻した。
「けほっ!けほっ!……レイミ……?」
涙で視界が滲むが、それでもはっきりと自分の妹を見た。
「ああっ!お姉さま!」
感極まったレイミはそのままシャーリィを強く抱きしめる。その小柄な身体に確かな温もりを感じて、涙は止まること無く頬を伝って流れ続けた。
死にかけました、シャーリィ=アーキハクトです。懐かしさを感じる声を聞いて目が覚めました。物凄く咳き込んでしまいましたが、どうやら助かったみたいです。
そして目を開けると、そこにはレイミが居ました。
当たり前ですが成長していましたけど、私が妹を間違える筈はありません。今すぐ世界が滅亡する確率の方が高いと断言します。
それにしても随分と成長しました。可愛らしさを残しつつも凛々しくなった顔立ちは頼もしさを感じます。
ただ何となく身長は私を越えているように思えますし、なによりそのお胸様は私より豊かです!
なにこれ!?弾力があって柔らかいですよ!?妹はナイスバディ!姉はチンチクリン!姉としての威厳が粉砕されましたよ!?やっぱり世界は意地悪でクソッタレですね!ファック!
「お姉さま……?」
世界の不条理に嘆いていると、レイミが私に視線を合わせてきました。嗚呼、ようやく会えた。ずっと探していた、私の大事な妹。立派になって……駄目ですね。再会したら掛けようと思っていた言葉が頭から抜け落ちてしまいました。うん、今は言葉より行動で示しましょう。
シャーリィもまたレイミを抱きしめて、姉妹は八年ぶりの再会と互いの無事に涙を流す。だが、無粋な者は直ぐ側に居た。
「痛ててっ!やりやがったな小娘ぇ!貴様も死にたいのかぁ!」
復帰して立ち上がったボルガは吠える。もしそのまま逃げ去れば彼の運命も変わっていただろう。少なくとも長生きはできた筈である。
ボルガの咆哮に対して、姉妹は揃ってまるで氷のように冷たい視線を向ける。
「無粋な輩が居るみたいですね。お姉さまの首を絞めていた以上生かしておく理由もありませんが。お姉さま、お知り合いですか?」
「三年ほど前に、私達にちょっかいを出してきた組織のボスですよ。危うく犯されるところでしたが」
「は?お姉さまに乱暴を働こうとした!?万死に値しますね」
「三年前は見逃して、いやいつの間にか逃げ失せていましたが……私も詰めが甘い。ちゃんと始末するべきでしたね」
姉妹はゆっくりと立ち上がる。
「お姉さま、裸足ですが痛くないですか?」
レイミはシャーリィの足元を見て心配する。
「川に流された時に脱げたみたいです。石を踏んだら泣いてしまうかもしれませんよ?」
「では、私がおんぶしてあげますね」
笑顔で答えるレイミは明らか頭一つ分身長が高い。
「それは姉として断固拒否します。威厳がマイナスになってしまいますからね」
シャーリィは普段の無表情ながらも妹の気遣いに対して微妙な感情を露にする。
「無視するなぁあっ!!」
目の前で姉妹の穏やかな会話を見せつけられたボルガは激昂する。
「うるさいですね、お姉さまとの会話を邪魔するな」
「こちらは妹と話したいことがたくさんあるのです。感動の再会を邪魔するなんて無粋にもほどがありますよ」
姉妹は揃って冷たい視線を向けたままボルガと向き合う。
「ふざけやがって!舐めるのも大概にしやがれ!丸腰の小娘に俺が負けると思うか!?」
ボルガは腰に差していたロングソードを抜きながら吠える。
「剣術に心得があるようには見えないのですが?」
「商人ギルドのボスですよ、レイミ」
「なら素人ですね」
「ぁあああっ!」
激昂したボルガは剣を振り回しながら姉妹に迫る。
「よっ!」
「ふぐっ!?」
「やー」
「げっ!?」
しかしそれをあっさりといなしたレイミが顎に掌底をぶち当てて脳を揺さぶり、更にシャーリィが股間を蹴り上げた。
「うぉおおおっ!!」
膝を突いて悶絶するボルガ。
「えいっ!」
「やっ」
「もっっっ!!!???」
更に示し合わせたように姉妹二人が左右から回し蹴りを顔面に叩き込んで蹴飛ばす。
「うっ、嫌な感触」
素足のまま玉を蹴りあげて顔面まで蹴ってしまったシャーリィは嫌そうに呟く。
「あとで入念に洗いましょう」
レイミはボルガが取り落としたロングソードを拾う。
「では止めを刺しますか。なぶる趣味は……無いことはありませんが」
「あるんですね、お姉さま」
うっかり漏らした隠された一面に反応するレイミ。
「幻滅しましたか?」
「お姉さまに敵対した者ならば幻滅しません」
「ではレイミに幻滅されなくて済みそうです」
ホッとするシャーリィ。
「では、私もお姉さまに隠していた秘密を一つお伝えしますね」
「レイミの隠し事ですか。楽しみですね」
「これです」
次の瞬間手に握っていたロングソードが一瞬で凍りつき、ひび割れて粉々に砕け散った。
「なっ!?」
それを見ていたボルガは目を見開く。
だがシャーリィは。
「非常に興味深いです。手品ではありませんね?」
目を細めるシャーリィ。
「端的に言えば、私は魔法が使えます。もちろん、小さな頃からずっと。生まれながらにです」
レイミは姉に対して秘密を暴露した。魔法は人間が使えない力。そのため北方大陸では化け物扱いをされ、『オータムリゾート』ではリースリット以外は知らない。人間は未知のものを忌み嫌うのだから。
「なっ!?化け物めっ!」
ボルガの反応は予想通り。最愛の姉はどんな反応をするのか。レイミは緊張しながらシャーリィの様子を窺う。
そしてその姉は。
「非常に興味深い。後でゆっくりと教えてください」
「怖くはないのですか?」
「……なぜ私がレイミを怖がらなければいけないんです?」
不思議そうに首をかしげるシャーリィにレイミは自然と笑みが浮かぶのを自覚する。
「……ふふっ。ではお姉さま、魔法を使いますから良く見ていてくださいね」
未知に対して恐怖よりも強い好奇心を示す。幼い頃から変わらない姉に内心ホッとしながらレイミは姉の敵を始末するべく、そして魔法を姉に見せるために気合いを入れるのだった。