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レイミとシャーリィに敵わぬと感じたボルガは、再起を図るため逃走を選択した。

「このっ!化け物がぁああっ!」

捨て台詞を吐いて逃げ出すボルガに、レイミは右手を向ける。

「逃げるな!凍てつけぇ!」

瞬間莫大な魔力の奔流がボルガに襲い掛かり、その両足を瞬く間に凍り付かせた。

だが走っていた勢いはそのままだったため凍り付いた足は砕け散り、ボルガはバランスを失い倒れる。

「ぁあああ!?なっ!?なっ!?」

失われた両足を見て言葉が出ないボルガ。

「足止めですよ。本来は砕けないように気を付けるのですが、貴方相手には必要ないと判断しました」

それをレイミは氷のように冷たい目で見つめる。

「氷属性の魔法ですか?レイミ」

そんなレイミに無表情ながら暖かい視線を向けるシャーリィ。

「はい、お姉さま。魔力には属性があり得手不得手があります。私は氷の精霊に好かれているみたいですね」

「なるほど、だから凍らせたのですね」

シャーリィは凍り付いた右肩の傷を触る。

「応急処置に過ぎませんよ。帰ったら本格的な治療を受けてください。そして美味しいものを食べて休まないと」

「分かりました。氷魔法なら氷を産み出せますよね?再会のご馳走はかき氷で決まりです」

「お姉さま、好きですもんね」

もちろんかき氷と言う食べ物をこの世界に持ち込んだのはレイミである。幼少期密かに氷室を作って姉とこっそり食べていた。

この氷菓子をシャーリィは大層気に入り、よく食べていた。

「ぁあああ!ぁあああ!」

「うるさいですね。お姉さまさえ良ければ止めを刺しますが?」

「妹に人殺しをさせられますか。いや、少なくとも私の前ではさせません」

「分かりました。ですがお姉さま、得物は?」

「残念ながら魔力が切れてしまいましてね。川に沈めますか」

シャーリィは柄だけの魔法剣を取り出す。

「それは?魔力を僅かに感じますが」

「魔石を剣の柄に埋め込んだものです。伝説の勇者が魔法剣を使っていたと言う伝承に倣って作ってみました。浅知恵で威張れるものではありませんが」

「いえ、そんなことはありませんよ。魔法剣なんて発想はありませんでした。流石はお姉さまです」

「誉めても膝枕くらいしかしませんよ?」

「では全力で称賛しましょう」

ボルガは絶句していた。自分を今すぐに始末できる小娘たちが交わす緊張感の無い会話を至近距離で聞かされているのだから。

「ではお姉さま、その魔法剣を使いましょうか」

「レイミ、先程も言いましたが魔力が切れています。今は使えません」

「いいえ、使えます。お姉さま、魔力を持つものは他の魔力を探知することが出来ます」

「それは初耳です」

「普通に生きていたら必要がない知識ですからね」

「待ってください、その言い方だともしかして?」

「予想通りですよ、お姉さま。貴女も魔力を持っています」

「私がですか?」

「産まれながらに持っていたわけではありません。少なくとも私が生まれた時には魔力なんて無かった」

「後天的なものですか」

「その通りです」

レイミの言葉にシャーリィは少なからず驚きを隠せなかったが、最愛の妹の言葉をあっさりと信じた。そして、次の段階に進む。

「どうすれば使えますか?」

「魔法の行使は極めて繊細なので、この場で出来るのは魔力を籠めることだけです。簡単ですよ、柄を握って力を注ぎ込むのをイメージしてください。大丈夫、お姉さまならば出来ます」

レイミの言葉を聞いたシャーリィは目を閉じて柄を強く握る。

(なんだか、暖かい)

その瞬間シャーリィは不思議な体験した。まるでこれまで見失っていたものを思い出すような、そんな未知の体験。身体の中から暖かな何かが手を伝って柄に流れ込む感覚。

次の瞬間彼女は目を開き、内に沸き起こる暖かな感覚に従って言葉を唱える。

「輝け!」

その言葉に呼応するように柄から炎ではなく、闇を照らす光輝く刃が出現した。

「なっ!?なっ!?なっ!?なっ!?貴様も化け物かぁあっ!」

ボルガは叫び、そしてレイミは。

「綺麗……これは、光属性?」

「レイミ、仕込んだものは炎属性の魔石なのにこれは?」

「分かりません。お姉さまの魔力が魔石を作り替えてしまったとしか……」

レイミすら驚愕しているが、シャーリィはあまり驚かない。

「では、後日詳しく調べてみましょう。マスターにも相談するとして」

シャーリィは這いながら逃げようとしているボルガに視線を向ける。

「闇を払う光の剣ですか。暗黒街には似つかわしくありませんが、ちょうど良いので試し斬りさせてくださいね?」

「待て!待てぇ!待ってく……!」

「えいっ」

ペタペタと近寄ったシャーリィは何の躊躇もなく無造作にその光の刃をボルガの背に突き立てる。

「ぁっ……!」

「おや、これはまた興味深い。レイミ、綺麗ですね」

貫かれたボルガは瞬きをする間も無く全身が光の粒となり天に昇っていく。

「光属性は闇を払う。悪人が闇と想定するならば、これも光属性の効果なのでしょうか」

「後始末が楽で良いですね。ふむ」

力を抜くと光の刃は消えて柄のみが残る。

「興味深い結果になりましたね。レイミ、感謝します」

「いえ。それよりもお姉さま、直ぐに脱出して手当てを受けてください。私がご案内します」

「私の大切な仲間がまだ十六番街に残されたままです。私だけ逃げ出すわけにはいきません」

「ですが……お姉さま!」

レイミは気配を察知して身構える。視線の先には、配管の上に立つ黒いワンピースの少女が居た。その頭には犬のような耳が付いていた。

「獣人!?」

「待ちなさい、レイミ。探す手間が省けましたね。アスカ、無事ですか?」

「……シャーリィの血の匂いを辿った。ルイスも無事。この先で待ってる」

アスカはシャーリィと同じ無表情でシャーリィに返す。

「それは良かった。レイミ、私の大切なものです。安心してください。そしてアスカ、彼女は私の妹です」

妹を誇らしげに紹介するシャーリィ。そしてレイミを見つめるアスカ。具体的には身長や胸をじっと見つめる。シャーリィとレイミを何度もその瞳で見比べる。そして。

「……お姉さんじゃなくて?」

「はぅぁあっ!?」

「お姉さま!?」

アスカによる幼さ故に遠慮なく首をかしげながら問われた言葉は、シャーリィに最大級のダメージを与えるのだった。

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