コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
図書館で聞いた話をもとに、白兎堂に向かう。
久し振りの店内に入ると、いつものお婆さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。あら、アイナさん?」
「こんにちはー」
「はい、こんにちは。今日は服の注文かしら?
バーバラはいないんだけど――」
「あ、そうなんですか。
……ところでテレーゼさんって、今日はここに来ましたか?」
「テレーゼちゃん? いえ、来ていませんよ?」
……あれ?
いつの間にか、追い抜いちゃった? それとも――
「あの、もしかして王都に白猫亭……っていうお店、あったりしますか?」
「白猫亭? ……アイナさん、そんなところに用事があるんですか?」
そう言いながら、お婆さんは少し眉をひそめた。
あ、あれ? 白猫亭自体はあるんだ? でも、お婆さんのこの反応は一体……。
「えぇっと……。今、人探しをしていまして……」
「それって、もしかしてテレーゼちゃんのことではないですよね?」
いや、テレーゼさんのことなんだけど――
しかし『テレーゼさんが白猫亭に行った』だなんて言ったら、何だかおかしなことになってしまいそうだ。
……それなら、嘘も方便か。
「はい。テレーゼさんと一緒に人を探しているのですが、ここまでで分かったことをお話しようと思いまして……。
でも今度は、テレーゼさんの居場所が分からなくなってしまって……」
「あら、そうなの。……そうよね。
でも、ここには来ていませんよ。バーバラも昨晩は急ぎの仕事だったし、今日は来ないと思いますよ」
「分かりました、ありがとうございます」
お礼を言ってから、私は白兎堂をあとにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――白兎堂のお婆さんの反応を見るに、白猫亭……というのは、あまり良い場所では無さそうだ。
もしくは、私が場違いな場所だったり?
……例えば、えっちなお店だとか。
そんなところにテレーゼさんを探しに行ったなんてことになったら、テレーゼさんのイメージにも傷が付いてしまう。
……とは思ったんだけど、テレーゼさんが図書館の人に言うくらいだから、そんな場所のわけは無いか。
さて……、これからどうしよう。
テレーゼさんを探すためには白猫亭に行きたいわけで、それなら誰に聞けば良いのだろう。
ひとまずここから場所が近いということで、錬金術師のザフラさんのお店に寄ってみることにしよう。
――カランカラン♪
「いらっしゃいませ!」
「こんにちはー」
「あ! アイナ先生! お久し振りです!」
……そういえば、『先生』付けで呼ばれていたっけ。
「3週間振りくらいですね。その後はいかがですか?」
「はい、おかげ様でポーションも順調です!
取り扱いも少し、増やしてみたんですよ」
そう言いながら、ザフラさんはお店の棚を案内してくれた。
確かにポーションが増えたような気もするが、床に置かれた爆弾も増えたような気がする。
どうやら爆弾の取り扱いを減らす気は無いようだ。
「なるほど、順調そうですね。何よりです」
「それでアイナ先生、今日はどうしたんですか?」
「探してるお店があるんですけど、場所が分からないんです。
もしかして、ザフラさんが知らないかなって思って寄ってみました」
「そうでしたか。お店の名前とか、特徴とかって分かります?」
「はい。えっと……白猫亭、っていうお店なんですけど……」
どういう反応になるか……緊張しながら伝えてみると、ザフラさんはあっさりと返してきた。
「そこは少し距離があるので、地図を書きますね」
「あ、ご存知なんですね。ちなみに、どういうお店なんですか?」
「酒場ですよ。以前、冒険者さんたちに連れていってもらったことがあるんです♪」
「へー」
……何ていうことはない、白猫亭は酒場だった。
ちなみにこの国では、お酒は15歳から飲んでも問題ない。私は17歳だから大丈夫だ。
……あれ? そうすると白兎堂のお婆さん、何で眉をひそめたんだろう?
もしかして私、15歳未満だと思われてた……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ザフラさんの地図をもとにその場所へ行ってみると、少し静かな感じの酒場を見つけた。
バーのようなカウンターがありつつも、その後ろには普通の飲み屋のような感じで、大きなテーブルがいくつも並べられている。
時間は昼過ぎになっていたが、何組かの人たちが既にお酒を飲んでいた。
……それにしても、テレーゼさんは何で酒場に?
「――いらっしゃい。嬢ちゃん、昼間っからこんなところに何の用だ?」
店内に足を踏み入れると、少し怖そうな店員から声が掛かってきた。
「すいません、人探しをしているんですけど――
ここに、体調の悪そうな女の子って来ませんでしたか?」
「来てねぇな」
何となく違和感を覚えてテレーゼさんの名前は伏せたものの、あっさりと知らないと言われてしまった。
……情報が少なすぎたのだろうか。
「えっと、背はこのくらいで……髪の色が――」
「おい、お客さんがお帰りだ。つまみ出してこい」
「へいっ」
「わ、ちょ、ちょっと――!?」
私は店員の一人に背中を押されて、そのまま外に追い出されてしまった。
元の世界を含めても、こんな強制退店は初めてである。
「……とまぁ、おやっさんはああ言ったんだけどよ」
「え?」
声の方を見てみると、もう戻ったとばかり思っていた店員が、まだそこに立っていた。
「世の中、コレだろ?」
そう言いながら、その店員は指で輪っかを作って私に見せた。
情報料をくれたら……と言わんばかりの顔をしている。
「えっと、どれくらいで……?」
「銀貨5枚でいいぜ」
これまた絶妙な値段だ。
高すぎるということもなく、微妙に払いやすそうな金額であることが腹立たしい。
……しかし、よくよく考えてみれば、もう昼過ぎなのだ。
今回はテレーゼさんを追跡するのが目的でも無いから、ここはもうテレーゼさんの家に戻れば普通に会えるのでは――
「あ、大丈夫です。もう帰りますので」
「えぇっ!? そ、そりゃ無いよ! 今月の家賃がピンチなんだ!!」
「知りませんよ……」
「よ、よし! 分かった! 銀貨1枚にまけてやる! お願い!!」
「銅貨で3枚くらいにまかりませんか?」
銀貨ではなく、銅貨で。
出せる金額なんて、それくらいが良いところだ。
「くぅ……分かった! それで頼む!」
どれだけピンチなんだか……。
そう思いながらお財布から銅貨を3枚出して渡す。もはや乞食に恵んでやるような心境すらしてしまう。
「はい、どうぞ」
「へへ、ありがとな!
それで、あんたの言う体調の悪そうな女の子なんだけど……実は、来たんだ!」
「まぁ、そうですよね」
来てもいないのに情報料を取られるのでは、こちらとしても堪ったものではない。
念のため間違いが無いか、テレーゼさんの髪の色や特徴を先に聞いてみる。
お金欲しさに適当なことを言われても困るからね。
その結果、テレーゼさんがここに来たことは間違い無いようだった。
「――以上だ!」
「え? お店に来たことだけしか、結局教えてもらってませんよね?」
「うん? ……そうだな、あとは食べも飲みもしなかったぞ」
「はぁ……。何をしに来たんでしょう」
「ひひっ、それは本人に聞いてくれな。
そんで、一応はおやっさんも体調が悪そうなことを心配していたんだ。
そしたらその子、もう家に帰るって言ってたぞ!」
「おおぅ……」
「さて、それじゃ俺はそろそろ戻るぜ!
これ以上ゆっくりしていたら、おやっさんに怒鳴られちまう!」
そう言うと、その店員は走って店内に戻って行ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は再び、テレーゼさんの部屋までやってきた。
コンコンコン
今朝と同じように、ドアをノックして様子を窺う。
……しかし今回も、中からの返事は無かった。
「あら、また来たの?」
声を掛けてくれたのは、これまた今朝と同じお隣の女性だった。
「こんにちは。もう家に戻ったって聞いて来たんですけど……まだいないようですね」
「あら、一度は戻ってきたのよ。そしたらすぐに、また出て行っちゃったわ」
「えぇー……? 体調はまだ悪そうでした?」
「ええ。朝とあまり変わっていなかったわね。
それで、白兎堂っていうお店に行くって言ってたわ」
白兎堂!
白猫亭ではなく、白兎堂!!
「ありがとうございます……。行ってみますね……」
「あんたも大変ねぇ。それじゃ、頑張ってね」
……私、何でテレーゼさんを追い掛けてるんだっけ?
確か、お見舞いをするためだったよね……。