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「突然だが、結婚をしてほしい」
その日、オリジナルブランドの香水専門ショップを経営する会社──「KATZE(カッチェ=ドイツ語で猫の意味)」の社長兼父親から、話があると呼び出された娘の私は、とんでもなく唐突な話に、わけもわからずに「はぁ?」と思わず訊き返した。
「すまない、彩花。そこに座って、ちょっと話を聞いてくれるか。先日、KOOGA(クーガ)グループの社長が亡くなったことは、おまえも知っているだろう?」
話の意図が全く読めないまま、父の草凪社長に促されて、私は社長室のソファーに脱力したように腰を落とした。
「うん、家電製品を初めとするあのクーガのトップの突然の死は、ニュースにもなっていたから私も知っているけど。それが結婚のことと何の関連があるの?」
なぜそんな話題がいきなり持ち出されたのかもまるでわからなくて、私は自らの父親の顔をじっと見据えた。
「そう……実はな、そのクーガの社長、久我とは、旧知の仲で、この会社カッチェを起ち上げる時にだな……」
さっきからやけに遠回しな言い方に、
「前置きはいいから、ちゃんと理由を話して」
さすがにやきもきとして、先を問いただした──。