「ああ、驚かずに聞いてほしいんだが、起業の際に、当時から既にクーガを率いて実績のあった久我に、私から個人的な融資を頼んだんだ。その時に向こうが出した条件が、あいつの息子とおまえとの結婚で……。
まさかこっちも本気で言っているとは思わないんで、その条件を鵜呑みにしてしまったんだが、久我が今際の際に、息子におまえとの結婚を託したらしくてな……」
「……なっ!」あまりに突拍子もない話に、言葉にもならない声を上げ、思わず座っていたソファーから立ち上がった。
「ほっんとうに、すまない! 何度も言うが、私も本気だとは……。それで、久我の一人息子の貴仁君が、おまえに会いたいと直接連絡をしてきてだな……」
開いた口がふさがらないとは、まさにこういう時のことを言うのかもしれない……。文字通り、ぽかんと口を開く私に、父は懇願するように、「だから、一度向こうと会ってみてほしいんだ」と、手を合わせて頼み込んだ。
「ほら、もしかしたら貴仁君がおまえを気に入らなくて、結婚までには至らないかもしれないしな」
「気に入らないって……もう、お父さんったら……!」
父の会社で働いていることもあり、公の場では社長と呼んでいるのもすっかり忘れて息巻く。
気に入らないなどと言われたら、いくら意に添わない話だとしても、それはそれで乙女心とは傷つくものなのだ──。