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《アメリカ・ワシントンDC/ホワイトハウス前》
曇り空の下、
ホワイトハウス前の広場には 二種類のプラカードが並んでいた。
『DO SOMETHING!』
『SAVE OUR PLANET』
そして、すぐ隣には、
『DON’T PLAY GOD』
『NO NUKES IN SPACE』
声は、互いにぶつかり合っていた。
「政府は何をしてるんだ!
オメガが落ちるまで、指をくわえて見てるのか!」
「宇宙で爆弾を使うなんて冗談じゃない!
人間が神の領域に手を出せば、もっとひどいことになる!」
メガホン越しの怒鳴り声。
手作りのプラカード。
SNSの生配信用に、スマホを掲げる若者たち。
画面の隅には
#PlanetaryDefense
#PlayingGod
のハッシュタグが踊る。
その様子を、ホワイトハウスの窓から見下ろす男がいた。
ジョナサン・ルース大統領。
側近がタブレットを手渡す。
「世論調査です。
“強力な宇宙ミッションを支持”46%、
“反対”29%。
残りは“分からない”か“情報が足りない”、と。」
ルースは短く唸った。
「半分はいない、ということだ。
“何かしろ”と叫ぶ連中と、
“何もしないでくれ”と叫ぶ連中が、
同じ国旗を振っている。」
側近は言葉を選んだ。
「いずれにせよ、Day70までに決断を。
SMPAGからも、“それ以降はlaunch windowが急激に狭くなる”と。」
ルースは窓の外をにらんだ。
(この国は、“何もしなかった大統領”と
“間違ったことをした大統領”の話しか覚えない。
“正しいかもしれないが、誰にも感謝されない決断”なんて——
教科書には載らないんだ。)
しかし、時間は待ってくれない。
《NASA/PDCO会議室》
スクリーンには、
「PLANETARY DEFENSE OPTIONS」と書かれたシートが映っていた。
PDCO担当官
「大統領向けブリーフィング用の資料、
最終版のドラフトです。」
① Kinetic Impactor Mission(アストレアA案)
② 核オプション(最終手段案)
③ 観測強化・避難準備のみ
アンナ・ロウエルは、腕を組んでシートを眺める。
「③は……要するに、“何もしない”に限りなく近いわね。」
担当官
「政治的には、“何もしなかった”とは言わないための選択肢ですが。」
アンナ
「オメガの質量と速度を考えれば、
“観測と祈りだけ”で乗り切れる確率は、
キネティックインパクターの成功率よりずっと低いわ。」
「ただし」と、もう一人が口を挟む。
「失敗した場合の責任の所在は——
インパクターのほうが重く見られる。
“殴ってもダメだった”という事実は、
“殴らなかった結果”よりも派手に残る。」
アンナは静かに言った。
「それでも。
プラネタリーディフェンスは、
“宇宙の前で格好をつける”ためのものじゃない。
“最善のチャンス”を国と世界に提示するのが、
私たちの仕事。」
担当官は、少しだけ目を細めた。
「大統領には?」
「“リスクがゼロの選択肢は存在しない”
“何もしないこともまた、一つの巨大なリスクだ”
とだけは、はっきり伝えるべきね。」
会議室の空気は重かった。
だが、その重さこそが、 いま人類が立っている場所の高さでもあった。
《日本・総理公邸/夜》
珍しく、サクラは官邸ではなく公邸にいた。
ダイニングテーブルの上には、 温め直しただけのコンビニ弁当。
壁際のテレビから、
アメリカのデモの様子が流れている。
『DO SOMETHING』のプラカードと、
『DON’T PLAY GOD』のプラカード。
サクラのスマホが震えた。
画面には、娘の名前。
「もしもし。」
『……ママ、忙しい?』
電話越しの声は、
無理に明るくしているのが分かる。
「ううん。いま、やっとご飯。
そっちは?講義、まだやってる?」
『一応。
でも、クラスメイトの半分は休み。
“どうせオメガで終わるし”とか言って。
……私も、正直どっちが正しいのか分かんないや。』
サクラは少し黙ってから、
正直に答えた。
「ママも、分かんないよ。」
『えっ。』
「総理大臣だって、
全部が全部“自信を持って正しい”なんて言えない。
ただ——
“どう終わりたいか”だけは、自分で選べる。」
『……どう終わりたいか?』
「最悪の結果になっても、
“あのとき、できることは全部やった”って
自分で思えるかどうか。
ただ、それだけ。」
電話の向こうで、
娘が小さく笑った。
『それ、学生にも言ってよ。
“宿題出すのも、生きる準備だ”って。』
サクラも笑った。
「じゃあ今度の会見で、
“宿題はちゃんと出しましょう”って言おうかな。」
『それはやめて。炎上する。』
二人はしばらく他愛もない話をした。
電話を切ったあと、 サクラは天井を見上げる。
(家族にも、国民にも、
“100%大丈夫”なんて言えない。
それでも——
“何もしない政治”だけは選びたくない。)
冷めかけた弁当を、
一口だけ口に運んだ。
《黎明教団・オンライン配信》
天城セラの顔が、画面いっぱいに映る。
白いローブ。
静かな目。
セラ
「皆さん。
世界は今、二つの道の前に立たされています。」
コメント欄には、
日本語・英語・その他の言語が入り乱れている。
「from Brazil」
「from Germany」
「from USA」
セラ
「一つは——
“宇宙に拳を振り上げる道”。
オメガという“神のメッセージ”に対して、
人類が石を投げ返す道です。」
一瞬、チャットがざわつく。
「宇宙パンチのこと?」
「DARTのニュース見た」
「また戦争好きの連中だ」
セラ
「もう一つは、
“変わるべきは自分たちだ”と認める道。
古い価値、 お金、 学歴、 競争、 支配。
それらを手放し、“新しい世界”を受け入れる道です。」
彼女は、静かに微笑んだ。
「私は、
宇宙に向かって拳を振り上げることを、
“神への反逆”だと考えています。」
ざわつきが、さらに大きくなる。
セラ
「オメガは、“復讐”ではありません。
“浄化”であり、“再起動”です。
それを恐れ、
爆弾や機械でねじ曲げようとするなら——
人類は、何度でも同じ過ちを繰り返すでしょう。」
コメント欄には、賛成と反発が並ぶ。
「そうだ!」
「殴るとか傲慢」
「いや何もしないほうが罪だろ」
セラの声は、最後まで変わらない。
「黎明教団は、
“宇宙を殴る”道よりも、
“魂を整える”道を選びます。」
画面の向こうで、
世界中の誰かがその言葉に救われ、
また別の誰かが、その言葉にぞっとしていた。
《新聞社・社会部》
深夜のフロアに、蛍光灯の白さだけが残っている。
桐生誠は、
海外通信社の記事と、
天城セラの配信ログを並べていた。
「US may consider kinetic impactor
as part of “planetary defense”」
「New religious group calls Omega “divine restart”
and opposes any space mission」
(宇宙を殴ろうとする政治と、
それを“神への反逆”と呼ぶ宗教。)
キーボードを叩きながら、
桐生は眉をひそめる。
(どっちの物語も、“分かりやすさ”では強い。
“人類の反撃”と“神の試練”。
間に挟まれた普通の人間は、
どっちを信じればいい?)
画面の隅には、
相変わらず“城ヶ崎”という名前が小さく光っていた。
(お前は、“真実を広めた”つもりだったんだろう。
でも、
その真実の周りには、
もっと大きな“物語”がいくつも渦巻いている。)
桐生は、記事の仮タイトルを打ち込んだ。
《“宇宙を殴る”か、“神に任せる”か——
揺れる世界と、揺れる日本》
(……さて、どこまで書いて、どこで止めるか。)
その判断もまた、
一人の人間に背負わせるには、
あまりに重いものだった。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.