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《東京証券取引所・朝》
始業の鐘が鳴る前から、フロアはざわついていた。
「先物、また下げてるぞ。」
「輸送株、昨日に続いてストップ安コースだな。」
「保険もボロボロだ。オメガ関連の試算が出回ってる。」
大型モニターには、
真っ赤なチャートと、
“オメガショック”の文字。
「世界同時株安・1カ月で時価総額30%減」
「格付け会社、複数国の信用格付けを引き下げ」
若いトレーダーが呟く。
「……これ、リーマンのときよりエグくね?」
「リーマンは人間が原因だったけどよ、
今回は“空から来る”んだ。
誰に怒ればいいか分かんねぇぶん、質が悪い。」
鐘が鳴る。
数字が一斉に動き出した。
《国連・SMPAG最終調整オンライン会議》
画面には、各国の宇宙機関と軍事・外交の代表が並ぶ。
右下のタイマーには、《Day71》の表示。
議長
「それでは、オメガに対するSMPAG勧告案、最終確認に入ります。」
スクリーンに三行が浮かぶ。
① 非核オプション:キネティックインパクターミッション(アストレアA)
② 核オプション:最終手段としての軌道偏向・破壊案(公表は慎重)
③ 観測強化と地上避難のみ(消極案)
アンナ・ロウエルが口を開いた。
「IAWNとCNEOSの最新解析では、
オメガの衝突確率は**0.56(56%)**前後。
観測を重ねるごとに、
“外れる方”より“当たる方”のシナリオが増えています。」
ESA代表
「つまり、“時間が経つほど悪いニュースが増える”と。」
白鳥レイナが続ける。
「はい。
誤差は確かに減っています。
ただ、その誤差が“危険側”に寄っている。
今のところ——
“放っておいても助かる”未来は、
かなり少数派です。」
ロシア代表
「それでも、インパクターの一撃で十分なΔvを与えられなければ、
“中途半端な偏向”で逆に落下地点を予測不能にするリスクもある。」
議長
「その点について、技術評価は?」
アンナ
「“成功確率100%”とは言えません。
ただ、現時点で“現実的に間に合う非核案”は、
アストレアA以外に存在しないのも事実です。」
白鳥
「日本としても、
“非核オプションを第一の推奨案とする”ことに賛成です。
核案は、“最悪の場合に備えた理論上の選択肢”として
文書には残すべきですが——
国民感情を考えれば、
“表の顔”にしてはいけない。」
議長は静かに頷いた。
「それでは、SMPAGとしての最終勧告は——
“アストレアAを中心とする非核オプションを第一推奨案”とし、
核案は**“極めて限定的な最終手段”**として添付、
観測・避難のみの案は“非推奨”とする。
この方針でよろしいですね。」
各国のマイクから、
「同意」の声が重なる。
アンナは、画面の端に小さく表示された文字を見た。
『各国首脳への正式勧告送付期限:Day70 00:00』
(あと一日。
ここから先は、科学者の仕事じゃない。
“人間の決断”の領域だ。)
《日本・総理官邸/執務室》
分厚い封筒が、机の上に置かれた。
差出人は、『国連SMPAG議長』。
藤原危機管理監
「オメガに関する“宇宙ミッション選択肢”の正式勧告です。
内容は、先程共有したとおり——
第一推奨は“キネティックインパクター”。」
田島外務大臣
「アメリカからも、“ほぼ同内容のブリーフィング”が来ました。
ルース大統領は、明日、
“何らかの宇宙ミッションについて世界に向けてコメントする”予定だそうです。」
サクラは封筒の口を切り、中身をざっと目で追った。
「……“観測と避難だけ”は、
“非推奨”なのね。」
藤原
「はい。
SMPAGとしては、いわゆる“何もしない政治”は
はっきり“悪手”と位置づけています。」
サクラは、ペンを指で回しながら呟いた。
「インパクターに賛成すれば、
“人類初の反撃”に足並みを揃えた国になる。
反対すれば、
“リスクを恐れて何もできなかった国”と言われるかもしれない。」
天野秘書官補が、おそるおそる口を開く。
「……総理は、どうしたいんですか?」
サクラは少し目を閉じ、
言葉を選ぶように答えた。
「“どう思うか”なら、
とっくに決めてる。」
「え?」
「オメガが落ちる確率が半分を超えていて、
時間も限られている。
それでも“殴りに行くべきか”って聞かれたら——
私は、“行くべき”だと思う。」
天野
「じゃあ、賛成を?」
サクラは首を振る。
「賛成“する・しない”じゃなくて、
ーー“賛成する代わりに何を守らせるか”ーーを
決めなきゃいけないの。」
藤原が、表情を引き締める。
「具体的には?」
「被害が出たとき、
誰の責任になるのか。
情報公開をどのタイミングで、どこまでやるのか。
日本の企業や研究者が、
“人類の失敗”の矢面に立たされないようにするには——」
田島が小さく笑った。
「総理らしいですね。
“やるかやらないか”じゃなくて、
“やるなら、どう守るか”に頭が行く。」
サクラも笑った。
「だって、“やらない”という選択肢は、
もう現実的じゃないもの。」
彼女はSMPAGの文書に署名をした。
『日本政府として、SMPAG第一推奨案に基づく国際協力に前向きである』
(明日、ルースが何を言うか。
その瞬間から、日本も“当事者”になる。)
《黎明教団・都内路上デモ》
白いローブの一団が、
静かに横断幕を掲げて歩く。
「オメガは神の光」
「宇宙を殴るな」
「NO PLANETARY STRIKE」
一般の通行人が足を止める。
「……なんだあれ。」
「宗教?オメガ関係?」
「“宇宙を殴るな”って、あのDARTのやつか?」
街頭ビジョンには、
アメリカのデモと同じように、
「DO SOMETHING」
「DON’T PLAY GOD」
の文字が映る。
黎明教団の若い男性信者が、ビラを配っていた。
「オメガは“浄化”です。
宇宙に爆弾を投げつければ、
もっと大きなツケを払うことになります。」
ビラの端には、セラの言葉。
<破壊から創造へ。
古い価値がリセットされたあとに、
“選ばれし魂”の世界が訪れる。>
ビラを受け取った大学生が、眉をしかめる。
「選ばれし、ね……。
でも、“殴りに行く”のも怖いし、
何もしないのも怖いんだよな。」
別の通行人が、スマホでデモの様子を撮りながら呟く。
「“宇宙パンチ賛成派”と“神に任せろ派”、
そのうち本当にぶつかりそうだな……。」
《新聞社・社会部》
桐生誠は、モニターに映ったSMPAG勧告案の“リーク版”を見つめていた。
「CONFIDENTIAL:SMPAG RECOMMENDATION SUMMARY」
「Option-1:Kinetic Impactor Mission (Primary Recommendation)」
「Option-2:Nuclear Option (Last Resort)」
「Option-3:Monitoring & Evacuation Only (Not Recommended)」
(……ここまで出てきたか。)
編集長が背後から声をかける。
「お前、これ記事にしたいんだろ。」
「“人類が本気で殴りに行こうとしてる”って、
ちゃんと伝えるべきだと思います。
希望にもなるし、
現実にもなる。」
編集長は腕を組んだ。
「ただし、“リーク文書”だ。
明日、大統領が何か言うらしいって噂もある。
そこで正式に出る情報と食い違ったら——
“情報をかき回した日本の新聞社”って叩かれるぞ。」
桐生は少し黙ってから、答えた。
「じゃあ、“事実”だけに絞ります。
“宇宙ミッションの検討が、
国際的な場で第一候補として扱われ始めている”——
それ以上は書かない。」
「中途半端だな。」
「でも、
“何も知らないまま明日を迎える”のと、
“なんとなくでも希望の形を知っている”のとでは、
受け止め方が違うと思うんです。」
編集長は、ため息をつきながら笑った。
「……お前らしいわ。
よし、“観測強化と避難だけでは不十分”ってところまでなら書け。
“アストレアA”の名前は伏せろ。
政府にも一応、電話は入れておけ。」
「ありがとうございます。」
桐生はキーボードに指を置いた。
(Day70。
明日、世界はどっち側に転ぶんだろうな。)
《サクラの公邸・夜》
窓の外は静かだが、
時折、遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
机の上には、
SMPAG勧告と、
ルースからの非公開連絡メモ。
サクラは、小さく独り言を漏らした。
「明日、“世界がオメガに向かって拳を振り上げる日”になるのか。
それとも——
“まだ考え続けるだけの日”になるのか。」
答えは、まだ誰にも分からない。
ただ一つだけ確かなのは、
この夜が、 ー“決断の前夜”ーとして、
後で何度も思い出されることだろう。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.