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咄嗟に受身を取ったが、どこかしらの骨が折れるだろうか……と多少諦めていた。
腹に思い切り力を込め、首の後ろを守る。
少しの恐怖から、目を瞑ってしまった。
だが、痛みを感じることはなく、次に目を開けた時には、何かに乗り揺られていた。
ゆっくり目を開く。
下を向くと、そこは辺りに生えていた草では無く、白みがかった毛皮のようだった。
揺られているような感じがした。
思わず起き上がってみると、自分が乗っているのは動物だった。
それは、リンデェンには鹿に見える。
強風をかき分けながら走るその速さに驚きを隠せずにいた。
何が何だかも分からない。
当然のことで、状況が理解できずにいた。
ただ、リンデェンは今 期待で胸を膨らませている。
乗っている鹿が、同じ耳飾りの青く光る
あの鹿のように思えてならなかった。
本当は正面からみたいのだが、この恐風に吹かれながらは到底無理でいた。
すると、急に眠気がリンデェンを襲う。
抗っていたが、対抗できずそのまま眠りに落ちてしまった。
目を覚まし上を向くと、葉同士の間からの木漏れ日が眩しく起き上がる。
辺りは緑の木に囲まれていた。
慌てと隣を見てみると、ロンレイが座っており、リンデェンを見つめて言う。
「お兄さん、目を覚ました?」
確認のため、リンデェンに聞いた。
「ロンレイ……?」
色々な事が今の一瞬で起きすぎて、状況を理解出来ていなかった。
ロンレイはほっとため息を着く。
寝そべっていたリンデェンは、ロンレイの隣へ座った。
「よく分からなんだけど……ここは何処?
何があったか、私もよく分かっていないんだ」
ロンレイがリンデェンの肩へもたれかかった。
リンデェンの言葉はスルーされたのかと、少し
俯く。
幼稚な心の現れ と自分でも自虐していた。
「後で説明するよ……今は少しだけこうしていたい。」
肩にもたれかかっていたいということだろうか。
心配してくれたのだろうか。
それでいて疲れたのだろうか。
よく分からないが、ロンレイの願いは聞いてあげたかった。
距離が近く、互いの息の音が聞こえる。
さっきまでの殺気立った風の片鱗も感じられず、対照的な美しい自然の中。
二人は、綺麗な草むらに座っている。
しばらくの間、2人で静かにこうしていた。
するとロンレイは満足したのか、立ち上がり
リンデェンの手を取った。
「ありがとう、落ち着いたよ。古屋に帰った話し合おう。彼女とも、そこで落ち合うことになってるから。」
彼女とは、リンシィーのことか。
手を取り、立ち、ロンレイに続いて歩いた。
静かに扉を開けると、まだリンシィーは2人が帰ってきたことに気づいていなかった。
台所に落ち着かない様子でいる。
リンデェンは前に出て、そっとリンシィーの後ろへ立った。
「心配させてしまってすまなかった。帰ってきたよ、リンシィー。」
その声を聞いた途端、リンシィーは肩をビクつかせ、振り向いた。
上がっていた肩が下がり、息をつく。
「デェン師、貴方って人は……もう。
負傷していないようで良かったです。とりあえず、座っていてください。水出します。」
「ありがとう。」
言いたいことは色々あったが、リンシィーの言う通りとりあえず座ることにした。
リンデェンが座ると、ロンレイも隣に腰を下ろす。
リンシィーが水を3つ出してくれた。
3人座ると、一息ついてロンレイが切り出す。
「お兄さん、俺たちはまだよく分かっていないから、何があったか教えて。」
冷静な様子だった。
リンデェンも自分で何があったか、思い出し、時系列を並べて考える。
「まず、近くにある泉の所へ行ったんだ。リンシィーは1度行ったことがあると思う。
座っていたら、小鳥が2匹、近くへ止まった」
ゆっくり、しっかり話始めた。
二人は真剣に聞いてくれていた。
「しばらくそこに居たんだけど、そうしたら突然、小鳥たちが森の奥へ飛んで行った。
近くにいた動物が全て、同じ方向へ飛んで行ったんだ。そこで、何が起きたか分からなくなった。 」
あの時のことを思い出す。
若干のトラウマになっている気がした。
「周りを見渡したいたら、今度は強風が吹いてきて……ずっとそこで耐えていたんだけど、
途中、吹き飛ばされた。」
そう言うと、目を逸らしていたリンシィーが
リンデェンの方を見た。
吹き飛ばされた このせいだろうか。
リンデェンは構わず話を続けた。
「このままでは、命はないと思ったけれどやっぱり諦めていたら、何故か怪我していなくて……」
この時、突然に何故、怪我を負わなかったのか
思い出せなくなった。
何故だろう?
それだけが、頭を巡る。
色々な可能性を思い出そうと努力したが、一向に思い出せなかった。
「どうしてだろう……私も分からない。」
リンデェンは思わず俯いた。
もやもやしたこの感情をどうにかしたくて、仕方がない。
すると、ロンレイがリンデェンに聞く。
「絶対に、風に吹き飛ばされたんだよね?」
最初の言葉を強調されて、少し自信がなくなってきた。
 ̄でも、確かに吹き飛ばされたんだ……
吹き飛ばされた時、抵抗できないと思ったとき、あの感覚をまだ覚えている。
「確かに地に足を着いていられなかった。
絶対に。でも、なぜ今無傷なのか……」
ロンレイを見つめた。
ロンレイは自分を疑っているのでは無いか。
「お兄さんがそう言うならそうだと思う。
ただ、どうして無傷なのかは、お兄さん自身が思い出すしかない。」
そう言うと、ロンレイは辺りを見渡した。
なにかあったのか と、リンデェンも辺りを見渡してみる。
「どうかしたのか?」
リンデェンも見てみるが、特に何がしたいのか
分からず、聞いてみた。
ロンレイは、少し溜めてから答えた。
「思い出すヒントになる何かが無いかなっ思って。ありそう?」
今度はじっくり見てみるが、特に思い当たることはなかった。
リンシィーが静かに口を開く。
「デェン師の身につけているものや、私たちが身につけているもので、思い出せることは無いでしょうか……?」
それを聞き、まず2人の服装を眺めた。
隅々まで観察したが、特にピンと来るものはなかった。
自分のことも見てみる。
いつもと変わらず、特に思い出せなかった。
首を振ると、リンシィーが申し訳なさそうに
「そうですか……」
と呟いた。
色々考えているうち、リンデェンがふと不思議に思うことができた。
「ロンレイは何故、私の居場所が分かったんだ?」
記憶が無いからかもしれないとは思いつつ、
不可思議に思う。
「嗚呼、それは偶然だ。あの泉は、俺も何度か行ったことがあるからね。彼処は空気が澄んでいるから気に入っていたんだ。
そうしたら、動物たちが近くに集まっていたから、見に行ったらそこに、お兄さんがいた。」
リンデェンに向けて、簡潔に答える。
「そうか……ロンレイが見つけてくれて助かったよ。感謝する。」
頭を下げると、ロンレイは
「やめてよ、お兄さん。」
と笑いながらも頭を上げるよう言った。
「いつか思い出すことがあれば、伝えてください。昼食をお作りします。」
リンシィーがキッパリ言うと、そそくさと料理を始めた。
気付かぬうちに、お昼時になっていたのだ。
その間、ロンレイは壁の修理に必要なものを集めに行った。
リンデェンは、心の気持ち悪さが消えず、打ち消すなにかが無いかと、外へ出かけていった。