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ある日、若井は一人で涼ちゃんの家へ向かった。
インターホンを押すと、しばらくして玄関の鍵がカチャリと開いた。しかし、ドアはほんのわずかしか開かない。
ドアの前には涼ちゃんの気配だけがある。
しばしの沈黙のあと、若井はゆっくりと自分でドアを引いて、中に足を踏み入れた。
目の前に現れた涼ちゃんは、以前より明らかにやせ細っていた。
青白い顔、痩せた手足――見ているだけで胸がぎゅっと締め付けられる。
「……なんか、変わったね。」
若井がぽつりと呟くと、涼ちゃんは表情を変えずに小さな声で「入っていいよ」とだけ言い、リビングの方へ歩き出す。
若井は急いで靴を脱ぎ、涼ちゃんの後を追うようについていった。
リビングに入ると、そこには以前と違う空気が漂っていた。
床には着古した服が散乱し、机の上にはぐちゃぐちゃになった楽譜が無造作に積まれている。
伏せられた3人の写真立て。その横には、種類もわからない大量の薬が置かれていた。
(……うわ。)
若井は声に出さず、心の中でその惨状に息を飲むしかなかった。
涼ちゃんは振り返りもせず、淡々とした声で、「なんの用?」とだけ問いかける。
若井は一歩、二歩と慎重に近づき、静かに頭を下げる。
「……この前は、ごめん。いきなり腕、掴んで……。話すもしんどいのに、ごめんね。」
涼ちゃんは少しもこっちを見ない。
静まり返った空間に、若井の小さな呼吸音すら響いた。
――進むも戻るも難しい、張りつめたリビングだった。
(このままじゃ、いつか取り返しのつかないことになる)
若井はそう思いながらも、自分になにができるのか、今はまだわからなかった。