テラーノベル
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しばらく静まり返った時間が流れた。若井は気まずさと不安に押されながら、顔を上げて涼ちゃんの背中を見る。
そのとき、涼ちゃんがゆっくり振り向いた。
「いいよ、別に。怒ってないし。ただ、僕ひとりで居たいだけ。」
その声音は小さくて、どこか遠く、諦めにも聞こえた。
「そっか……。体調良くなったら、また帰ってきてね……絶対待ってるから。」
若井の言葉に、涼ちゃんは返事をしなかった。でも、ほんの一瞬だけ、バンドのみんなで音楽をやっていたころの、少し優しい表情が浮かんだ。
だけどその表情のまま、急に涼ちゃんの顔色がさっと青ざめ、体が前に崩れるように倒れこむ。
「涼ちゃん!?」
若井はとっさに駆け寄り、倒れた涼ちゃんの体を必死に支えた。
「おい、大丈夫か!? 涼ちゃん……答えて!」
呼びかけても、涼ちゃんは反応しない。
(やばい……どうしよう、助けないと……!)
慌ててポケットからスマホを取り出し、元貴に電話をかける。
「もしもし、元貴?涼ちゃん倒れちゃって……今すぐ来て!」
「おけ、すぐ行く!」と元貴の短い返事。
電話を切ると、若井は涼ちゃんの額に触れて熱を確かめ、そして右腕の袖をめくる――
そこには幾重にも重なったリスカの跡が、はっきりと残っていた。
血の気が引くような感覚の中、若井は必死に脈を確認しながら、救急への連絡を考える。
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