コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「蓮さん。今日の夕ご飯、食べたいものはありますか?」
二人でスーパーに寄って、食材を見ながら彼に問いかける。せっかくの機会、彼の好きなものを作ってあげたい。
「そうですね……」
蓮さんはしばらく考えたあと
「子どもっぽいって思われるかもしれませんが、ハンバーグが食べたいです」
そう伝えてくれた。
「ハンバーグでいいんですか?」
良かった、それなら普通に作れそうだ。
とは言ってもこの間、自分の家で作ったときは焦がしちゃったけれど……。
スーパーで必要な材料を買い、車に戻る。
当たり前のように軽々と買ったものを持ってくれる蓮さんがカッコよく見えた。
彼のマンションに着き、エレベーターに乗る。
この間は精神的にショックを受けていたからかよく覚えていないが、マンション内は管理がきちんとされており、ゴミ一つ落ちていなかった。
家賃はいくらくらいするのだろう、そんなことまで考えてしまう。都内で二十五階に住めるようになるには、どれくらい努力しなければならないのだろうか。
そんなことを考えているうちに、彼の部屋に着いた。
「お邪魔します」
部屋の中に入ると、この間と変っていない。
整った部屋、私が想像していた男性一人暮らしのイメージではない。
「蓮さんのお部屋って、綺麗ですよね」
部屋を見渡しながら思わず口に出してしまった。
「そうですか?あまり物がないだけですよ。残業の時も多いですし、帰ってシャワーを浴びて寝るみたいな日もあるので」
二人で冷蔵庫に買ってきた物を入れる。
「蓮さん。私、夕ご飯の準備をするので、ゆっくりしていてください」
「いえ、何か手伝いますよ」
そう言って、彼は腕捲りをする。
「ダメです。休んでてください」
彼の背中を押し、キッチンから遠ざける。
私の勢いに押されてか
「わかりました。では、そこの机でパソコンを開いているので、何かあったら言ってくださいね」
彼はパソコンを開くという表現を使ったが、おそらく仕事をするのだろう、そんな気がした。
休んでほしかったが、仕事ということになると口を挟んではいけないと感じたため、何も言えない。
私がキッチンで調理をしていると彼の姿が見えるのだが、真剣な表情をしてパソコンに向かっている。
「蓮さん、珈琲です」
夕食の準備をしている間に、珈琲を淹れた。
「ああ、すみません。ありがとうございます」
「お仕事ですか?」
少し彼は困ったような顔をして
「仕事……と言えば仕事かもしれません。メールを返信しているだけなんですけどね」
「仕事」と言えば私が心配するから?
「あんまり無理しないでくださいね」
「ありがとうございます。愛が淹れてくれた珈琲美味しいです。さすが珈琲専門店の店員さんですね」
私が離れると彼は再びパソコンに向かった。
彼が仕事をしている姿を見て、蓮さんが喜んでくれるようなハンバーグを作ろうと改めて思った。
「よしっ!できた」
この間のように焦がすことなく上手く焼けた。
蓮さんを見ると、机の上で頬杖をつきながら眠ってしまっている。
彼の近くに行き、起こそうとした。
眠っている彼を見る。
長いまつ毛、綺麗な肌、そして、彼の唇を見て今日頬にキスをされたことを思い出す。思い出しただけでドキドキしてしまった。
でも、私も彼にしてみたい。
寝ているうちにしたら、怒るだろうか。
いや、蓮さんはそんなことでは怒らないだろう。
少しずつ彼の頬に自分の顔を近づける。
あと五センチくらいで彼の頬に届くところだった。
やっぱり無理。息ができないくらい緊張する。
諦めて、顔を遠ざける。
ふぅとため息が出てしまった。
すると
「キスしてくれるかと思って、期待をしてしまいました」
声に反応し彼を見ると、上目遣いをして私の方を見ている。
「えっ!起きてたんですか?」
私が悪いのだが、騙されたような気がした。
「いや、途中までは本当に寝てしまっていて。熟睡ではなかったので愛が近づいてくる音で起きました。俺が寝てたらどうやって起こしてくれるのかなって思って、寝たふりをしてみました。そうしたらもうちょっとで……」
もうちょっとと言いかけた彼の口を私は手で塞いだ。
「ご飯できましたよ!」
彼は笑って「はい」とだけ答えた。
私が作ったハンバーグを食べ
「美味しい!」
彼はそう言ってくれた。
「やっぱり、愛は料理が上手ですね」
この間、焦がしてしまっただなんて言えない。
「また作ってくれますか?」
彼が優しい目をして言う。
「もちろんです、こんなので良かったら!いつでも作りますよ」
私ができることで、彼が喜んでくれるのであればどんなことでもしたい。その気持ちは強くなる一方だ。