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#ゲーム部屋
(株)姫神V
52
586
#曲パロ
玲奈
148
被害者宅を出たあと。
神代朔夜は、しばらく玄関前に立っていた。
「どうした?」
橘恒一が声をかける。
「封筒のことを考えている」
「蝶の絵が描いてあったってやつ?」
「ああ」
「奥さんは捨てたって言ってたな」
「そうだ」
朔夜は手帳を見る。
そこには、先ほど聞いた内容が簡潔に書かれている。
――蝶の絵が描かれた封筒。
――死亡前夜に受け取った。
――中身は不明。
――封筒は廃棄。
「でも、これだけじゃ送り主は分からない」
橘が言う。
「だから調べる」
「どこから?」
「郵便物」
「なるほど」
二人は再び車へ向かった。
その途中。
「神代さん」
後ろから声がした。
小宮透だった。
「小宮?」
「さっき黒崎さんから連絡があって」
「何だ」
「封筒について、少し分かったことがあります」
小宮はスマートフォンを見せた。
「被害者宅に届いた郵便物を調べてもらったんですが、普通の郵便ではない可能性があります」
「普通じゃない?」
「奥さんの話では、郵便受けに入っていたわけではないそうです」
「じゃあ?」
「玄関前に置かれていた」
朔夜の足が止まった。
「直接?」
「はい」
「防犯カメラは?」
「確認中です」
「何か映っているか?」
「まだ分かりません」
小宮が少し言いにくそうに続ける。
「ただ……」
「何だ」
「奥さんが、封筒を受け取ったときのことを覚えていました」
「何て?」
「男だったそうです」
「顔は?」
「覚えていない」
「特徴は?」
「黒い服だった、と」
橘が眉を上げる。
「また黒か」
「それだけなら珍しくない」
朔夜は言った。
「でも、今までの情報と重なっている」
「駅前の人物?」
「ああ」
駅前の防犯カメラ。
黒い服の人物。
そして。
蝶の封筒を届けた人物。
同一人物とは限らない。
だが。
無関係とも言い切れない。
「小宮」
「はい」
「被害者の携帯電話を調べてくれ」
「分かりました」
「最後に連絡を取った人物を全部確認する」
「はい」
「それと」
朔夜が少し考える。
「被害者の仕事関係も」
「仕事関係?」
「何か恨みを買っていた可能性がある」
「分かりました」
小宮は頷いた。
そのとき。
「お前ら」
低い声が聞こえた。
黒崎玲司だった。
「仕事を増やしすぎるな」
「黒崎さん」
橘が振り返る。
「今ある情報から、一つずつ確認しろ」
「はい」
「推測だけで繋げるな」
黒崎は朔夜を見る。
「特にお前」
「……分かっています」
「ならいい」
黒崎はそれ以上何も言わなかった。
だが。
少しだけ間を置いてから。
「封筒については俺も確認する」
そう言った。
「黒崎さんが?」
「ああ」
「何か気になることが?」
「いや」
黒崎は答えた。
「気になるのは、お前だけじゃない」
そう言って歩き出す。
橘が小さく笑った。
「相変わらず怖いな」
「……そうか?」
「怖いよ」
小宮が頷いた。
「怖いです」
「お前まで言うなよ」
橘が苦笑した。
その日の夕方。
捜査一課の資料室。
小宮は一人で大量の資料を確認していた。
被害者の勤務先。
過去のトラブル。
金銭関係。
交友関係。
SNS。
何時間もかけて調べる。
「……何もない」
被害者は、ごく普通の会社員だった。
目立った犯罪歴もない。
大きな借金もない。
会社で大きな問題を起こした記録もない。
「じゃあ、どうして……」
小宮が画面を見つめる。
そこで。
一つの古い投稿が目に入った。
三年前。
被害者がSNSに投稿した写真。
公園の写真だった。
何の変哲もない。
木々。
ベンチ。
青空。
そして。
写真の端に。
一匹の蝶が写っている。
「……蝶」
小宮は画面を拡大した。
普通の蝶。
少なくとも、写真だけではそう見える。
投稿文には一言だけ。
『久しぶりにここへ来た。』
「ここ……?」
小宮は場所を確認した。
市内の古い公園。
現在の事件現場から、車で二十分ほど。
「偶然かな……」
小宮はメモを取った。
そのとき。
「小宮」
後ろから声がした。
「うわっ!」
小宮が振り返る。
朔夜だった。
「……驚かせないでください」
「悪い」
「神代さん、いつからそこに?」
「今来た」
「足音がしないんですよ……」
「そうか?」
朔夜は小宮の画面を見る。
「何を見つけた」
「被害者の三年前の投稿です」
小宮は説明する。
「事件とは直接関係ないかもしれません。でも、ここに蝶が写っていて」
「公園か」
「はい」
「行く」
「今からですか?」
「ああ」
「でも、黒崎さんが……」
「連絡は俺からする」
小宮は少し迷った。
それから。
「……分かりました」
二人が資料室を出る。
廊下の先では、黒崎が二人を見ていた。
「神代」
「はい」
「どこへ行く」
「公園です」
「理由は?」
「被害者の過去の行動に、蝶が出てきました」
黒崎は少し考えた。
「俺も行く」
「……」
朔夜が黙る。
「何だ」
「いえ」
「文句があるなら言え」
「ありません」
「なら行くぞ」
その後ろから橘も顔を出した。
「俺も行こうか?」
「来い」
黒崎が答えた。
「小宮一人では危ない」
「俺は?」
「お前はもっと危ない」
「ひどい!」
橘の声が廊下に響いた。
数十分後。
三人は公園へ到着した。
夕暮れ。
人は少ない。
古い遊具。
ベンチ。
木々。
そして。
蝶。
何匹か飛んでいる。
「普通の公園だな」
橘が言う。
「そう見える」
朔夜は周囲を見る。
写真と同じ場所。
同じベンチ。
同じ木。
ただ。
三年前の写真にはなかったものが一つある。
「……これ」
小宮が指差した。
ベンチの裏側。
小さな傷がついている。
何かを削ったような跡。
「文字?」
橘がしゃがむ。
そこには。
小さく。
一文字だけ刻まれていた。
蝶。
「……」
誰も喋らなかった。
朔夜が傷を確認する。
「新しいものじゃない」
「三年前くらい?」
「分からない」
そのとき。
公園の奥から。
小さな子供の声がした。
「おまわりさん」
三人が振り返る。
そこには、小さな男の子が立っていた。
「どうした?」
橘がしゃがむ。
「ここに来ちゃだめなの?」
「なんで?」
男の子は公園の奥を指差した。
「おばあちゃんが言ってた」
「何て?」
「黒い蝶がいる日は、奥に行っちゃだめだって」
朔夜の目が、奥へ向く。
木々の向こう。
薄暗い遊歩道。
「いつから?」
朔夜が聞く。
「ずっと」
「黒い蝶を見たことは?」
「あるよ」
「どこで?」
男の子は答えた。
「池のところ」
その瞬間。
朔夜が歩き出した。
「神代」
黒崎が呼ぶ。
「分かっています」
朔夜は振り返らない。
「一人では行かない」
黒崎が続く。
「……はい」
四人は公園の奥へ向かった。
池の周囲には、何もなかった。
ただ。
水面に一枚の蝶の羽が浮いている。
青白い光沢。
朔夜がしゃがむ。
「またか」
黒崎が横に立つ。
「触るな」
「分かっています」
そのとき。
池の向こう側。
木の陰から。
何かが動いた。
人影。
黒い服。
朔夜が立ち上がる。
「誰だ!」
影が走る。
「待て!」
朔夜が追う。
「神代!」
黒崎も続く。
木々の間を抜ける。
だが。
そこには誰もいなかった。
ただ。
地面に。
一匹の蝶が落ちている。
朔夜は立ち止まった。
黒崎が隣に来る。
「……逃げたか」
「はい」
「追うな」
「……分かりました」
黒崎は地面を見る。
蝶。
そして。
その少し横に。
小さな青い染み。
黒崎の目が細くなる。
「神代」
「はい」
「この事件」
「……はい」
「やはり、ただの毒殺ではないかもしれないな」
朔夜は答えなかった。
風が吹く。
木々が揺れる。
一匹の蝶が。
二人の頭上を静かに飛んでいった。
コメント
1件
読み終えました。蝶の封筒というアイテムが一気に物語を引っ張り始めましたね。郵便受けではなく直接玄関前に置かれていた、というディテールが生々しくて不気味です。黒い服の人物との関連性も気になりますし、三年前のSNS投稿で公園に蝶が写っていた伏線が回収されていく感覚が心地いい。ベンチに刻まれた「蝶」の文字、黒い蝶の伝承、そして池の羽根と青い染み──情報が少しずつ積み上がるたびに、ただの毒殺ではない空気が濃くなっていきます。次、気になるなあ。