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「はぁ……疲れた」
宿題のプリントをテーブルに投げ出した俺に、こさめはすぐに気づいて顔を上げた。俺のベッドに寝転んで漫画を読んでいたのに、動きは俊敏だ。
「なつくんお疲れ様〜!コーヒー淹れよっか?」
跳ねるように起き上がり、キッチンへ向かおうとするこさめの腕を思わず掴む。
「待てよ」
引き留める理由は自分でもわからない。ただ、この温もりをもっと感じたいという衝動だけがあった。
「ん?どしたの?」
振り返ったこさめの頬を、指先でそっと撫でる。
「……やっぱ、ここにいろ」
声に出すと妙に恥ずかしい。けど、こさめはパァッと花が咲いたように笑顔になった。
「えへへ〜!なつくん甘えたさんモードだねぇ!」
嬉しそうに俺の隣に腰掛けると、肩にぴったりと頭を乗せてきた。
「でも疲れた時はちゃんと休まないとダメだよ?マッサージしてあげよっか?」
「いらねぇ」即答したものの、「少しだけなら……」と付け加えてしまったのは本音だ。
「わかった!じゃあ『こさめ式癒しマッサージ』開始だよ!」
無邪気に宣言すると、こさめは俺の首筋に両手を当て、軽く揉み始める。
「どう?効いてる?」
「まぁまぁだな」
強がりの裏側では、柔らかい手のひらの感触にゾクリとしている自分がいる。
「ふふ、なつくんの首あったか〜い」
ふいにこさめが俺の耳元で囁くように言った。
「……そこ、やめろ」
「なんで?こっちもほぐしてあげるよ?」
意地悪く笑うこさめ。悪戯心を刺激されるのはいつも俺の方だ。
耐えきれずに顔を上げると、目の前にある大きな瞳が潤んで見えた。月光のせいかもしれない。
「お前こそ疲れてねぇのか?」
尋ねると、こさめは首を傾げて微笑む。
「全然!なつくんと一緒にいると元気出るもん」
その純粋な言葉に胸がギュッとなる。俺はこさめの細い手首を握り、引き寄せるように自分の膝に乗せた。驚いた表情のこさめの顎を、親指と人差し指で挟む。
「ちょ……なつくん?」
「黙れ」
低い声で命令すると、こさめの喉仏が上下する。緊張してる証拠だ。それがさらに俺を高揚させる。
ゆっくりと顔を近づけていく。
「……んっ」
重なった唇は、想像以上に柔らかかった。息が詰まるほど深く求める俺に対し、こさめはぎこちなくも一生懸命に応えてくれる。互いの体温が溶け合う感覚に、理性が崩れていく。
長いキスのあと、名残惜しそうに唇を離した。こさめの目尻には涙が滲んでいた。息切れしながらも笑顔を作る。
「……なつくん、激しいよぉ……」
拗ねたような文句を言うのも愛らしい。
「お前が可愛いのが悪い」
素直な気持ちが口をついて出た自分に驚いた。普段なら絶対言えない台詞なのに。
こさめの顔が見る見る赤く染まっていく。
「ずるい……」
俯いたこさめが俺のシャツの裾を摘んで引っ張る仕草に、また心臓が大きく跳ねた。
「なぁに?」
「こさも、なつくんに触れたい……」
恐る恐る伸ばしてきた小さな手が、俺の胸板をまさぐり始めた。その拙い動きさえ、今の俺には十分すぎる刺激だ。
「……煽るなよ」
低く唸ると、こさめは慌てて手を引っ込めた。
「ご、ごめん!嫌だった?」
「違う。逆だ」
再び引き寄せて、今度は優しく抱き締める。
「こういうのは、ゆっくりやるのがお前らしい」
「……ん」
こさめは俺の胸に頬擦りしながら小さく頷いた。
お互いの鼓動が同じ速さで脈打っているのが分かる。こんな穏やかな時間が、たまらなく愛おしい。
「今日は泊まっていけよ」
髪を梳きながら囁くと、こさめの瞳が期待で輝いた。
「うん!なつくんと朝まで一緒にいたい」
「ただし条件がある」
指を一本立てて真剣な顔をする。
「明日のテスト範囲、しっかり教えてやる。落第したら許さんからな」
「えぇ〜!でもなつくんに教えてもらえるなら頑張れる!」
こさめは俺の膝の上で飛び跳ねそうになりながら喜んでいる。この調子ではまた夜更かしコース確定だ。
「バカ。まずは風呂入れ。汗臭いまま寝る気か?」
「え?なつくん汗臭い?なんか変なにおいする?」
焦って自分の二の腕をクンクン嗅ぎ始めるこさめの姿がおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「嘘だよ。いい匂いだ、すごく」
本心を告げたことで、こさめの顔がぼっと火が付いたように赤くなった。
「なつくんのイジワル!もう知らない!」
「わかったわかった。怒んなって」
逃げようとする背中に覆いかぶさり、首筋に軽くキスを落とすと、ピクッと震えて動きが止まった。
「続き、風呂上がってからな」
そう耳打ちすると、こさめは観念したように俺の腕の中で小さく頷いた。
誰にも邪魔されないこの時間を、俺たちはまだしばらく共有することになりそうだ。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝見え見えの嘘