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昼休みの教室は騒がしい。購買で買った焼きそばパンを齧りながら、俺はちらりと窓際の席を見る。案の定、こさめはクラスの女子たちに囲まれて黄色い声を浴びせられていた。
「雨乃くん、体育何が得意なの?」
「私、跳び箱苦手で……こさめくん教えてほしいなぁ」
「えへへ〜、任せて!こさ、運動神経だけは自慢だからね♪」
楽しそうに答えるこさめの横顔に、俺の胸がちくりと痛んだ。嫉妬だ。認めたくないが。
「お、なつ!焼きそばソース口についてんぞ」
突然声をかけられて顔を上げると、親友のいるまが弁当箱片手に立っていた。
「うっせ。勝手に見んな」
無造作に口元を拭う。
「それより聞いたぜ?昨日、こさめと二人で遅くまで残ってたんだって?」いるまが意味ありげにニヤリとする。
「勉強教えてただけだ」
「へぇ〜。ま、そういうことにしとくか」
これで納得してくれるわけがない。こいつは昔からの付き合いだから、俺の態度の変化に敏感なのだ。
「おーい、ひまちゃん!ちょっと来て!」
廊下から別のクラスメイト、すちの声が飛んできて救われたように思う。
「行ってくる」
立ち上がる際にこさめと目が合った。こさめは小さく手を振ってくる。この仕草だけは誰が見ても明らかな好意だろう。
部活の準備をしている最中、いるまが追ってきた。
「なぁ、さっきの話だけど……マジで何もなかったのか?」
「何もない」
「でも最近のお前ら、明らかに距離が近いんだよなぁ」
「気のせいだろ」
「例えばさ、登下校いっつも一緒だし」
「偶然だ」
「ランチも隣同士で食べるじゃん」
「席が隣だからな」
「休み時間毎回スマホ確認してるけど、相手ってこさめだろ?」
「……」沈黙が肯定になってしまう。
「やっぱな!」
いるまがポンと手を叩く。
「別に責めてるわけじゃないぜ?たださ、二人とも今までそんな素振り全然なかったから、びっくりしただけで」
「だから何もないって言ってるだろ」
思わず声が大きくなる。周りの部員たちがチラチラ見てくるのが鬱陶しい。
「じゃあさ、試しにこさめと喋ってる時に俺も混ぜてくれるか?」
「却下」
即答した。こさめとの時間を邪魔されるのは我慢ならない。
「ほら!やっぱり特別扱いじゃねーか!」
「……うるせぇ。あいつは特別なんだよ」
つい漏らしてしまった本音。しまったと思った時には遅かった。
「はい認めたー!」
いるまが拳を突き上げる。
「やっぱ付き合ってんだろ?付き合ってんだよな?」
「黙れ!」
今度は物理的に制圧しようと肩を掴むが、いるまはにやにやしたまま避けてしまう。
「安心しろって、誰にも言わないからさ。むしろ応援したいぐらいだ」
「余計なお世話だ」
「で、いつから?」
「関係ねぇだろ」
「キスとか……」
「ぶっ殺すぞ?」
拳を振り上げると、いるまは冗談半分で後退る。
「冗談だって!でも本当にお似合いだと思ってるんだよ」
「……」
「さてと、練習行かなきゃ。あ、でも一つだけ忠告しとくぞ」
いるまが急に真面目な顔になった。
「あまり露骨になると、雨乃ファンクラブが暴走するかもよ?」
「なんだそりゃ」
「あれ、知らなかった?女子たちが裏で結成してるんだ。こさめの身辺調査とかしてんだぜ」
「くだらねぇ」
「でも気をつけろよ。お前らの関係、意外とバレバレかもしんないからな」
下校時間、昇降口で待っていたこさめが駆け寄ってきた。
「なつくんお待たせ!今日はね……」
話を遮るように俺はこさめの腕を引く。
「行くぞ」
「え?あ、うん!」
校門を出てから、こさめが不安そうに聞いてきた。
「なつくん機嫌悪い?もしかしてまにきと何かあった?」
「なんでもねぇ。ただ……」
言葉を探す。
「いるまが気づきかけてた」
「えー!?」
こさめの足が止まった。
「それはまずいかも!こさ、結構バレるタイプだから……」
「バレても良いんじゃないか?」
思わず本音が漏れた。
「え?」
こさめが目を丸くする。
「……冗談だ。今はまだ早い」
頭を掻きながら訂正する。しかし、内心では佐野に指摘された通り、俺自身もう限界を感じていた。隠し続けることが。
「うん……こさも、なつくんと堂々といちゃつきたい……」
ぽつりと呟くこさめの横顔が、夕陽に照らされて切なげに映る。
「馬鹿」
そう言いながらも、俺はこさめの指先をそっと握った。
「バレるまでは、俺が守ってやる」
「えへへ……なつくん、大好き」
嬉しそうに握り返してくる小さな手。この温もりを守るために、俺はどんな手段を使っても隠し通すつもりだ。
でも――
本当にそれでいいんだろうか?
いるまの言葉が頭をよぎる。
『あまり露骨になると、雨乃ファンクラブが暴走するかもよ?』
そして何より、こさめが時折見せる不安げな表情が、俺の決意を揺さぶるのだった。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝露天カフェの陰で