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4月1日(月)
晴れ新しい年度が始まった。
東京くんや大阪くんはいつも派手に騒いでいるけれど、
ぼくは自分のペースで、真面目にモノづくりをしていればそれでいい。
今日は仕事の帰りに、お気に入りの喫茶店に寄って小倉トーストを食べた。やっぱり、このあんこの甘さが一番落ち着く。
明日も早いから、そろそろ寝よう。ぼくの街は、今日もいつも通り平和だ。
4月2日(火) 雨
変な夢を見た。
ぼくの体を、真ん中から綺麗に真っ二つに引き裂かれる夢。
右側が「おい」と呼んで、左側が「なあに」と答える。
朝起きたら、ひどく頭が痛くて、お気に入りのマグカップが床で割れていた。手が滑ったのかな。
あと、なんだか変なんだ。ペンを持つと、指が勝手に震える。
ぼくは、いつも通り、日記を、書いて、い、る、の、に。ぼくはだれだっけ。
あいちの、ぼくだよ。おやすみなさい。
4月4日(木) 曇り
きのうの、4月3日のきおくが、まるでない。
ぼくは1日じゅう、なにをしていたんだろう。
さっき、近所に住む三重くんが部屋にやってきた。
ぼくの顔を見るなり、ひどく怯えた顔をして「お前、誰だ」って言ったんだ。
失礼だなあ。ぼくはあいちだよ。
でも、三重くんが帰ったあと、鏡を見てやっと意味がわかった。
ぼくの右目の色、あかくなってる。赤味噌みたいな、どす黒い赤。
左目はいつもの黒なのに。ぼくの右半分が、ぼくじゃないみたいに、にやにや笑ってる。
ぼくは、あいち、じゃん?だがや。なあに、これ。
4月(金) 晴れ?
ぼくは、あいちだよ
あいちだよ
あたまのなかが、がさがさする。
だれかが、ぼくのなまえを、よんでいる。
「おわり」ってこえと、「みかわ」ってこえ。ちがう。
ぼくは、ひとつ。ぼくは、あいち、だよ。
でも、ノートをもつ、みぎてが、いうことをきかない。
みぎてが、かってに、へんな文字をかくんだ。
ほら、縺ゅ>って。なにこれ。
こわい。ぼくのなまえ、奪わないで。ぼくは、あいち、あいち、あいち、あ い ちじ ゃ ん だ が
4月11日(木) 縺ゅ>縺。
も う 大 丈 夫 だ よ
ずっと頭痛がしていたけれど、きれいに消えたんだ。
右側も左側も、みんな仲良くひとつになれた。
ぼくは、やっと完成したんだよ。
ノートを見返したら、変な文字がたくさん書いてあってびっくりしちゃった。
ぼく、どうかしていたのかな。
今のぼくは、とってもすっきりした気分。
ぼくのなまえは、縺ゅ>縺。
ああ、そっか。漢字だと、こう書くんだね。
…じゃあ、次はどこに行こう。
お隣の、静岡くんのところへ行こうかな。
コメント
3件
読み終えました。これは…とても巧みな不気味さですね。 日記の文体が壊れていく過程、特に「ぼくは、あいち、じゃん?だがや。」という名古屋弁の混ざった語りが、崩壊しつつある自我の最後の砦のように感じられて、ぞっとしました。右目だけが赤く変わった描写と、手が勝手に「縺ゅ>」と書く箇所——あの文字化けが、もうひとつの意志の侵入を可視化しているのが秀逸です。 そしてラストの「完成した」という認識と「次は静岡くんのところへ」という一文。これは単なる精神崩壊ではなく、別の何かへの変容、あるいは拡散を暗示しているように思えます。地名をキャラクター化する仕掛けも、この世界ならではの整合性があって、続きが気になりますね。