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とは言ったものの、どうすれば良いのか。


「安易に転移魔法を使うなど、どうかしてるな」

「はいはい、あんましゃべんなよ。皇太子殿下」


アルベドが転移魔法を唱えると、うっそうとした森の中に転移した。

見渡す限り薄暗い獣道が続いており、ここが何処なのかさっぱり分からない。


(こいつを信じたのが間違いだったか……)


差別をするわけではないが、元はと言えば敵対していた貴族であり、闇魔法の家門であるアルベド・レイ。エトワールとは仲がいいようだが、最初は彼女も彼の名前を聞くだけで嫌がっていたほどだった。ルーメンに聞けば、アルベドのゲームでの立ち位置は、暗殺者と言うことを隠している公子だとか。ルーメンは俺よりもこのゲームについて詳しく、色々と情報をくれた。俺は、ゲームをプレイする前に此の世界に飛ばされてしまったから、全く知識も何もないのだ。

そう、ルーメンに聞いてアルベド・レイは殺しをしていることを知った。何でも、悪行を働いた人間を殺すのだとか。そうだったとしても、悪人だったとしても殺しはよくない。戦場で人を殺している俺の言えた立場ではないが、相手の不意を突いて殺すのは何とも卑怯な話だと思う。それが、暗殺者なのだろうが。


いつの日だったか、起きたウンターヴェルト男爵を殺害したのもまず此奴で間違いないだろう。

エトワールはこいつの犯行を隠していたようだった。理由は分からないが、今にしてみれば、エトワールの言う彼は攻略キャラだから、の一言に尽きる。俺は今すぐにでも牢屋にぶち込んでやりたい気持ちだった。


(しかし、こいつがいなければもどることもかなわないだろうな……)


帝都から離れているのか、それとも近いのかは分からないが、どちらにせよ転移魔法は高位の魔法である。魔力量も必要となってくれば、体力も必要となる。しかし、それが軽々出来るのは、やはり闇魔法だからだろう。

闇魔法と光魔法の根本的な違いは、他者を自分のために利用する魔法であるということか、他者のために自分を犠牲にする魔法であると言うことかである。闇魔法は前者であり、人の魔力を自分のために置き換えられる力を持っている。光魔法は自分の魔力を相手に分け与えることが出来る。

この二つの魔法の違いは大きい。

ここに転移できたのは、俺の魔力と自分の魔力を掛け合わせて少しの魔力で転移魔法を発動させたのだろう。

エトワールは、アルベドは魔法の扱いに慣れていると言っていた為、侮れない。少なくとも今現在は俺たちの味方でいてくれる彼は心強い。


「口の利き方が悪いぞ。皇族に向かって」

「権力を振りかざす奴は嫌いなもんで」


と、アルベドは減らず口をたたく。

何故こいつと一緒に行動しなければならないのだと、不満を覚えつつも、此奴と一緒に行動するか、エトワールを助けれないかを天秤に掛けたらエトワールを勿論選ぶため、ここは耐えるしかないと思った。

俺は、前世で人付き合いがいい方ではなかった。周りにいた人達は俺よくしてくれたが、それは自分がおこぼれをもらうためという人間が多かった。

女性は、俺と付き合いたいと俺の容姿しか見ない。男は俺に嫉妬したり、おこぼれをもらいたいという願望が駄々漏れていた。俺を自分のために利用しようとしていた人間が多かったのだ。それを悪いとは言わない。だが、自分がトロフィーのような扱いを受けるのはまた違うと思った。


俺の気も知らないで。

そういうことがあったからか、俺は一番信頼できて一番話しやすいルーメン、灯華と一緒にいることが多かった。周りに人がいなかったわけでは無い。だが、彼といるときが一番安心できたのだ。親友として、幼馴染みとして。

だからか、ルーメン以外の男と二人きりというのは何とも不思議な感覚だった。慣れないというか、そもそもに此奴とは馬が合わない気がした。アルベドもエトワールに好意を寄せている内の一人のようだったから。ライバルが増えるのはごめんだ。


「貴様と同盟を結んだのは、エトワールが攫われたからだ。そうでなければ、貴様となど一緒にいたくない」

「俺も同じ気持ちだよ。皇太子殿下とはどーもあいそうにない。きっと、似たもの同士なんだろうな」


そうアルベドは言うと、自傷気味に笑った。

俺はその言葉の真意が分からず、ただ黙ってアルベドを睨み付けた。彼は、肩をすくめてやれやれと言わんばかりに口角を上げる。


(似たもの同士……俺と、彼奴が?)


アルベドの言葉が頭の中をまわった。確かに、似たもの同士というのは喧嘩しやすいというか、同族嫌悪のようなものを感じるかもしれない。

似ているからこそ、嫌になるし、気に食わない部分もある。

アルベドは、それを知っている自分の方が大人だというように俺を見下したように笑っていた。


「似たもの同士か……そうかも知れないな。だからこそ、気にくわないのかも知れない」

「そりゃどーも」


アルベドは素っ気なく言うと、先へと進む。

薄暗い森の中を歩きながら、転移した場所は、帝都から遠い森だろう。帝都では見かけない木々が生えている。国境をまたいだと言うことはないだろうし、そうだったとしたら魔法に何らかのノイズが走るはずなのだ。国境をまたぐさいには特殊な魔法が作用するから。

となると、帝都から離れているが、国境をまたいでいない場所……だが此処が何処なのかさっぱり分からない。

本当にここにエトワールがいるのかと疑いたくなる。こんな所で襲われたら誰にも助けを呼べないだろうと。


「俺の事疑ってんのか?」

「……何処へ連れて行くつもりだ」

「決まってんだろ。エトワールの元だよ。皇太子殿下、あんたはもっと人を信じた方が良い」


と、アルベドは言った。

俺はそれに反論することも出来ず、唇を噛み締めて彼の後ろを歩く。

人を信じていないわけではない。現に、ルーメンを信用しているからこうして行動を共にしている。しかし、此奴は別だった。俺と似ているから、何を考えているか分からないから、信用できない。いいや、そもそも彼の言ったとおり俺は周りを信じていないのかも知れない。

俺が、向けられてきた視線や過度な期待など……俺の内面を知ろうともしない奴らに嫌気がさして、俺は自分で壁を作っていたのかも知れない。

その内側にはいってきたのはルーメンと、エトワールだけだった。

信じれないからこそ、独りを好んでこの間のようなことが起きてしまうのだ。


(クソ……)


俺は拳を握りつつ、アルベドの後ろをついて歩いた。

彼に敵意がないことも、彼が俺を殺そうとしていないことも分かるのに、それでも偏見と先入観が邪魔してか、気に入らないという理由だけでか、信じられない。


「……ああ、そうだ皇太子殿下の質問にはお答えしねえとな」

「…………」

「すっげえ、嫌そうな顔してる」


アルベドは嘲るように言うと足を止めた。


「エトワールがこんな森の奥にいるのか。取り敢えず答えはイエスだ。だが、森の中に居ると言うよりかは、俺の家が持っている別荘に幽閉されていると言った方が正しいか」

「別荘?」

「まあ、一つや二つはあるだろう。俺も一応公子だし。皇太子殿下もあるだろ、別荘とか」


と、アルベドは言う。

確かに、俺にも幾つか別荘があると聞いたことがある。実際俺は全てを把握しているわけでもないし、そこに頻繁に行くわけでもない。俺自身あまり使っていないが、父親がたまに使っているのは知っている。

エトワールの歓迎会だったがその時には、別荘を使った覚えはある。皇族の所有物とはいえ、俺はそこまで執着していない。アルベドもそうなのだろう。


「一応な……だが、こんな森の奥にか?」

「闇魔法の者は、暗い所の方が魔法の効力を発揮できる。まあ、そんな理由でこんな薄暗い森の中にあんだよ。それに、ここは最近作られたところだしな。弟の、ラヴァインの為に」


そういうとアルベドは小さく舌打ちを鳴らした。

そこで俺はようやく、今回の主犯が彼の弟だったことを思い出した。アルベドとは随分と仲が悪いようだったが、どういう関係なのか。腹違いかと思うような容姿だったが、そこの所もどうか、気になるところだった。


「あー言っとくけどな、皇太子殿下。俺とラヴァインは正真正銘の兄弟だぜ。腹違いとかじゃねえよ」

「まるで、エスパーだな」

「誤解ないように言ったけだけだ」


アルベドはそう言ってため息をつくと、また歩き出した。俺は黙ってその後をついていく。


「仲が悪いのは見ての通りだ。公爵家は俺に後を継がせようとしてくれる奴らと、ラヴァインに継がせようとしている奴らの勢力で分裂している。俺は、どっちでも良いんだが彼奴に爵位を譲ったらきっと俺の夢は叶わないだろうと思ってな」

「夢?」


そう聞き返せば、アルベドは「でっけえ夢だよ」とだけ答えて、口を閉じた。

確かに、公爵家にしては今回協定を結べた勢力が小さいような気がした。理由は薄々分かっていたが、そこまで深刻だったとは考えもしなかった。

アルベドの言葉に俺は目を細めた。

こいつも苦労しているのだと、同情のような何かを感じる。俺とは全く違う環境に生まれて育って……

俺には兄妹はいないからよく分からないが。とアルベドの後ろ姿を見ながら俺は考える。しかし、答えが出るわけもなく、ただ足を進めるだけだった。

しばらく歩いていると、要塞のような建物が見えてきた。


「あれだよ」

「……随分と立派だな。遠くからでも分かる大きさだろうに。魔法でもかかっているのか?」

「さすがは、皇太子様だな。魔法の鑑定が上手で」


と、アルベドは乾いた拍手を送った。

俺はそんなアルベドを横目で見つつ、本当に要塞のように灰色で固められた建物を見て、あれをどう攻略すべきか考えた。アルベドならあの別荘の構造も知っているだろうから、彼についていけば良いだろう。だが、自分の身は自分で守らなければならない。

勝手に出てきて、勝手に二人でエトワール救出にヘウンデウン教の奴らの中に乗り込むのかと……バレればルーメンに怒られるだろうと、俺は呆れて笑いが漏れた。

まあいい、もうここまできてしまったのだから。


(信じるか……)


俺は、アルベドの先ほどの言葉を思い出し、隣の紅蓮を見る。


「んだよ、皇太子殿下」

「口が悪いな。礼儀作法……たたき直した方が良いんじゃないか?」

「皇太子殿下も、その自信たっぷりな笑顔やめた方が良いぜ。何て言うんだ、自分に酔ってる……ナルシストだったか?」


などと、二人で言い合う。腹が立ちつつも、何故か笑えてきてしまい、お互いの顔を見合わせプッと笑う。そして、目の前の建物を見上げた。


(待ってろ、エトワール。すぐに助け出してやるからな)

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